飛竜昇天破をマスターして帰ってきた早乙女君の罵詈雑言に加えて、姑息すぎる仕返しを受けてもお爺ちゃんは何事もなかったかのように受け流す。
邪悪妖怪にあるまじき行為と九能先輩も驚いていたけど。それ以上に早乙女君は焦っている。飛竜昇天破の正体は、おそらく温度差を利用する。
キリンと戦っていたとき、偶然にも使えたとお婆ちゃんは話していたけど。問題はどうやって飛竜昇天破を使えたのか。答えはお箸を使い、螺旋を作って防御していたキリンの動きだ。
そして、温度差は温泉────。
其処に二人の闘気を混ぜて放てば、楼閣を吹き飛ばす程の破壊力を持つ飛竜昇天破を使えるわけだ。ただ、今回はお爺ちゃん相手にしようするということ。
お爺ちゃんは飛竜昇天破を知っている。
「切君、どうするつもりだ?」
「何がですか?」
「貧力虚脱灸の件に決まっているだろう。早乙女乱馬に任せっきりにしているが、君も加われば勝てるかも知れないのだぞ?」
「私もそう思っているけど。あのお爺ちゃんが悪戯の仕返しに、こんな大掛かりな事をすると思う?」
「ムッ。言われてみればそうだが…」
「多分、無差別格闘流の修行も兼ねているんだろうね。創意工夫を学び、自力に頼らず、他力を得る事を学ぶ。強さと弱さを知る機会を使っているんじゃないかな」
そう言うと九能先輩は感心したように頷きつつ、必死にお爺ちゃんを怒らせる方法を試している早乙女君の健気さは素直に凄いと思うかな。
「……いや、あの妖怪の事だ。あとから思い付いて、適当にやっているだけかも知れないぞ?」
「ウ~ン。それもあり得るかな?」
「あり得るな。現に弱くなった早乙女乱馬に向かって恨みを持つ奴らがいる。あれを修行と言うには行きすぎているのではないか?」
それは、そうかも知れないね。
少なくとも私は受けたことはない。
それより酷い仕打ちは受けたから、こうして大抵の事には驚いたりすることはなくなったかな。そうじゃなかったら、私は私自身の事を悩んでいた。
「大丈夫だよ。早乙女君は強いからさ」
そう言って笑うと九能先輩は少しだけ不満そうに顔をしかめて、私の頭をワシャワシャと撫でる。跳ねた髪の毛だけど、毎朝整えているんだよ?
そう少しだけ困ったように九能先輩を見上げ、どうやって彼らに説明しようかと悩みつつ、どんどん追い詰めらこれる早乙女君を静かに応援する。
しかし、困っているのは本当かな。
そろそろ九能先輩やみんなのお弁当をサンドイッチ以外にしないと、またかと思われちゃうかもしれないからね。頑張らないとね。