「糸色、力を貸してくれ…!」
そう喫茶店アミーゴに呼び出された私に頼み込んできた早乙女君に驚きつつ、クスリと笑ってしまう。九能先輩もいるときに話しかけてきたのは、まだいい。
とても誠実だと思うし。
悪意や下心は無いんだろうけどね。
必死に考え抜いて、私を頼ってくれたと思うと少し嬉しく思う。けど、ちょーっとだけ助けを求める内容に恥ずかしさを感じるかな。
「き、きさ、きさまっ、僕の切君に恥ずかしい格好をしろだと!?ゆ、許せん!いくらだ!買おう!!」
「? 九能先輩?」
「そ、そんなんじゃねえって」
おもむろに財布を取り出した九能先輩に戸惑う早乙女君、私は写真なら部屋の中にいっぱいあるのに、まだ写真が欲しいのかな?と小首を傾げる。
恥ずかしいのは、いやだけど。よく九能先輩は私の写真を五寸釘君に頼んでいるし、今更写真を早乙女君からもらう必要はないんじゃないの?
「九能先輩は私の恥ずかしい写真がほしいの?」
「早乙女乱馬、あらぬ誤解を生んだな!?」
「誤解も何も一万円差し出してんじゃねえかよ」
「馬鹿者、まだ額が足りんわ!!」
そう言って怒る九能先輩は早乙女君を引きずって喫茶店の隅に移動し、何かを話し合っている。マスターを見ると「察してやれ。男の子の事情だ」と言われた。
男の子の事情……句君もそうなのかな?
「しかし、弱いままだと不便だろ」
「そうでもないかな。見えなくても見えるよ」
みんな、いい人だからね。
「俺が悪者だったらどうするんだ?」
「その時はその時だよ。それに美味しい料理とは粋なもの、さりげなく気が利いていなければならない、って言うでしょう?」
「前にも同じこと言いやがるヤツがいたな。切ちゃんは気付いていて、俺の店に通ってるのか?」
「さあ、どうだろうね。私は美味しいコーヒーとケーキを食べに来ているだけで、マスターが困るようなことをするつもりはないよ」
「そうか?なら、いいけどよ……待て、気付いてるのは否定しないのか?」
否定しないかな。私は他人より人の事を観ることが出来ているとは思うし。なによりマスターは悪い人だけど、美味しい料理を作ることが出来る。
全部が全部、悪い人じゃないというわけだ。
それにしても、いつまで九能先輩と早乙女君は話し合っているのかな。そろそろ寂しくて、そっちに突撃しても良いんじゃないかと思い始めている。
「……切ちゃん、男の子の事情だぞ」
それを知るのも彼女の特権だと思う。
近付いたら怒られるのかな?と小首を傾げながら、マスターにコーヒーのお代わりを頼み、鞄に仕舞っていた本をとりだす。