翌日、猫飯店。
早乙女君の髪の毛は無事に守ることが出来たけれど。龍の髭には賞味期限というものがあったらしく、お饅頭の人達も早乙女玄馬もお爺ちゃんもツルツル頭のまま、しくしくと涙を流している。
糸色景様は毛生え薬を知人に処方していたというお話もあるけど。その製造法は禁書庫の方に仕舞っている物ですし。「大百科」は私には読めなかった。
ある種の才能を必要とするそうだ。
「男の宿願を何故、拒む!」
「何が男の宿願じゃい!オレの髪の毛を犠牲にしようとした癖に偉そうな事を言うんじゃねえ!」
「うぐっ。息子の罵声が辛い…」
「自業自得じゃのう。しかし、糸色殿、お主なら髪の毛を生やす術を知っているのではないか?古今東西のあらゆる技術を取り込んでおる糸色家じゃろう」
「なんと…!」
みんなの視線がまた私に集まってきた。
でも、そんなこと唐突に言われても髪の毛を生やす術なんて早々思い付かない。いや、クモ御前のおば様なら知っているかもしれない。
すごく気難しいから無理かな。
「私は知らないや、ごめんね」
「ヌゥッ…!」
「オラも気を付けねば…」
「私の洗髪剤使ったら殺すある」
「つ、使わんだ!」
ムースとシャンプーの言葉を聴きつつ、早乙女玄馬は一縷の望みを託して、新しい髪の毛を生やす方法を手に入れるとお爺ちゃん達と誓い合っている。
お父さんも気にしているのかな。
「乱馬も気を付けなさいよ」
「わ、分かってる」
「ハゲはイヤやもんな?」
あかねさんと右京さんにからかわれている早乙女君を見ながら、クスクスと笑っていると小鎌さんに「最近、よく笑うようになったわね」と頭を撫でられた。
そう、かな?
確かに此方に来てから楽しくて、よく笑うようになってきた気がする。お父さんが此方に転校するように言ってくれたのは、このためなのかな。
「ところで、九能君はどうしたの?」
「帯刀先輩は鼻血噴いて倒れたから知らん」
「コイツ、いっつも鼻血出してるわね」
それは、大変なんじゃないのかな。
あとで小太刀さんに連絡して、お迎えに来て貰ったほうが良いかも知れないね。……ただ、どうにも九能先輩は私の胸やお尻にぶつかることが多い。
わざとじゃないんだろうけど。
何か変な呪いでも受けているのかな?
そんなことを思いながら目元を濡らしたタオルで隠し、唸っている九能先輩の頭を優しく撫でてあげる。早く良くなるといいけど。
一体、何を見たのか教えてほしいかな。
私も九能先輩が、ここまで動けなくなるほどビックリするものを見てみたい。