「妹の粗相、謝罪する」
「フフ、楽しかったですよ。九能先輩」
「そうか。嫁姑問題ないわけだな」
感涙の涙を流す九能先輩とお庭で向かい合いながらハンカチでナミを拭き取った彼は真剣な顔付きで木刀「風林火山」の柄を握り締めて、正眼に構える。
どうして、九能先輩と勝負に?という戸惑いもあったものの。彼の純粋な自分の腕を試したいという要求には応えるべきだと私は思った。
理由なんてシンプルで構わないんです。
「風林館高校剣道部主将、九能帯刀!此度の腕試しを受けて貰った事を感謝し、僕が勝ったら君と正式に交際する権利を頂きたい!!」
「糸色家当主候補、糸色切。承諾します」
男女の交際はまだ早いと思うけど。
ここまで真摯に私の事を見つめて叫んでいる殿方の懇願を簡単に断るのはダメだと思います。そういうのは宜しくないとお父さんに聞いている。
「でやあっ!!」
裂帛の気合いと共に放れた一呼吸の内に百を越える突きを手の甲や手のひらを利用し、軽く弾き、逸らし、往なして、ゆっくりと制空圏を築き上げる。
しかし、九能先輩は普通の剣道と違って実践剣道を習っているみたいです。幾つか知っている型や間合いを見つけ、思わず感心してしまう。
「クッ、流石は日本最高峰の武家の息女だ。僕の突きを往なしたのは早乙女乱馬以外では君が初めてだ。故に、此方も技を用いる!」
そう宣言する九能先輩は正眼に構えていた木刀を下げ、下段の構えに変える。すると、彼を中心に空気が揺らめき、ぼんやりと陽炎が見え始める。
「我が秘剣、受けよ!」
「お受けします」
「けぇーーーっ!!!」
凄まじい闘気の奔流を纏う木刀を真っ直ぐ天に向かって振り上げる九能先輩の剣戟を回避するため、真上に飛び上がって避けた事の失策を悟る。
蒼い稲妻を伴って空を翔る龍を受け止めるも身体が軋み、このまま受ければ負けると、生まれて初めて負けるかもと思ってしまった。
「くううぅっ!?」
空中で身体をひねって直撃は避けたものの、当たっていたら手傷は負っていましたね。危なかったと思いながら、滝のように汗を流す九能先輩を見つめる。
「かつて糸色家より賜りし我が九能家秘伝『暹氣龍魂』の強さはどうだろうか」
「寸分違わず、秘伝書に載る暹氣龍魂です。流石は九能先輩、感服ですけど。勝負は私の勝ちかな?」
「クッ、やはりそうか」
悔しそうに唸る九能先輩を抱き留めてあげ、芝生の上に倒れる彼を仕方ないから膝枕で介抱してあげる。当主様曰く「男は膝枕が好きらしい」とのことだ。
「……ふむ、空が半分しか見えん」
「べつに曇ってないですよ?」
気の消費が激しかったから意識がおかしいのかな?