ピコレット・シャルダンとの激闘を終えて数日ほど経過した頃、いつものように素直になれない早乙女君とあかねさんの売り言葉に買い言葉がお昼休みでも聴こえていたときだった。
目尻に涙を溜めながら怒る「乱馬なんかお姉ちゃんの許嫁になればいいじゃない!」というあかねさんの言葉が校舎に響いた。
それに天道先輩も肯定的に答えた瞬間、さっきまで仲良くお弁当を食べていた句君の目付きが変わり、九能先輩と小鎌さんがドン引きするほど顔付きが悪くなった。
「乱馬、ブッ殺す!」
そう言い残して、句君は駆け出す。
目的地は、早乙女君の居るところかな。
「行っちゃったね」
「うむ。守銭奴の末路は監禁束縛で決まりだな」
「えぇ……私、義妹が監禁されて仕方なく結婚したとかそういうのは嫌なんだけど」
小鎌さんの切実な嘆きに私は苦笑を浮かべ、九能先輩もウンウンと唸って悩んでいる。けど、実際にあれだけの強さを誇る句君が本気で捕まえようとしたら、天道先輩は絶対に逃げられない。
なんか、いやだなあ……。
「しかし、どうする。句が、僕や切君の言うことを聞くとは思えないぞ?」
「それを言ったら私の言うことも聞かないわよ。なんでこう、糸色家の血筋の男は重い上に粘着性が高いのかしらね。はあ、まともな男はいないのかしら」
「お父さんは普通だよ?」
「奥さまを考えると普通ではないわね」
私のお母さんに、なにが?も小首を傾げながらも九能先輩の口許の汚れをハンカチで拭き取ってあげ、水筒に容れていたお味噌汁のお代わりを差し出す。
「今更ながら、私達の胃袋って切さんに支配されてるわよね。九能君、貴方達が無事に結婚しても私にはご飯は食べさせてね?」
「気が早いぞ。あと数週間だ」
その言葉に肩が跳ねる。
もうすぐで九能先輩は18歳になる。
九能先輩と結婚する。───だけど、あと最後のひとりがまだ現れていない。もしもその人が私より強かったら私は九能先輩と結婚できない。
「案ずるな。僕は負けない」
「……うん。信じてる」
「私が言うのもあれだけど。切さんを狙う人って許嫁以外にもたくさん居るのよね。分家筋は当然だけど、傘下に入っている組織とかね」
「斬るか」
そんなことを呟きながら九能先輩は春巻きを食べ、真剣に考え事を始める。みんな、何だか危険な事をしているように思えるけど。
句君は早乙女君を追い回しているし、殺意で鎖分銅を振り回している。あんなに本気で襲うぐらいに、天道先輩を愛しているんですね。