初夏。
まだまだ夏休みには程遠い時期、九能先輩は奥義を極めるためにスイカ島というところに武者修行の荒行をクリアするために向かってしまった。
「切ちゃん、上の空だな」
「帯刀君、唐突に行ったものね」
「……別に悩んではいないかな。九能先輩は剣士として自分の強さを高めるために行っているわけだし。そういうところもかっこいいと思っているから」
「「その割にはスイカ島の近くに来たな」」
「う、うるさい」
スイカ島の見える海岸沿いの浜辺を歩き、早乙女君とあかねさんを見かけ、どうやら夏休みのクルージングに向けてあかねさんは泳ぎの特訓している様だ。
「元気なのは良いわね」
「なびき先輩がオレを呼んでいる」
クワッと怖い顔付きになった句君はパーカーを脱ぎ捨て、筋骨粒々な身体を見せつけるように歩き出した。無駄な脂肪を削ぎ、完璧に近く仕上げている。
みんな、元気で良いね。
「切さん、変な視線を感じるわよ」
「うん。気付いてるよ」
「襲ってくる気配は無いけど。明らかに切さんの事を見ているわ、刺客の放った密偵かあるいは切さんの力を狙っている相手になるわね」
その言葉に私も頷きつつ、全く襲ってこない相手に違和感を抱く。監視だけに留めるのなら、他の忍びに相手の事をお願いするしかない。
「お願いできる?」
「御意」
クーラーボックスの真横に顔だけ出して砂の中に潜んでいた忍びにそう伝えると砂の中を掻き分け、視線の相手を探しに向かってくれる。
「ところでさ。切さん、また大きくなった?」
「……あまり見ないで下さい」
すすっとタンクトップで隠している胸を包むように守り、少し溜め息を吐いてしまう。お母さんの遺伝なんだろうけど。糸色家の人達は、スポーティーな外見の人が多いから羨ましい。
肩凝りとか無縁なんじゃないかな。
「多分、すごく不敬な事を考えてるわね」
「そんなことは考えてないかな」
「ねえ、ひとつ聞いていいかしら」
「なにかな?」
「アレって帯刀君じゃないの?」
小鎌さんの指差す方を見遣ると、女の子に変身した早乙女君に抱き着いている九能先輩がいた。ただ、いつものような毅然とした雰囲気は感じない。
「助けてくれ、糸色いぃぃーーーっ!!!」
「呼んでるわよ」
「いや、早乙女君は此方に来ているから動かない方が良いんじゃないかな?」
そう話し合いながらやって来た早乙女君に海の家で売っていたジュースを渡し、あからさまに様子のおかしい九能先輩を見下ろしていたその時、熱烈な抱擁を受け、余計に困惑してしまった。
なんだか九能先輩らしくない。