天道先輩の凶行(という私と九能先輩のデート云々の話し)を止めて、ちょっとばかり恥ずかしい気持ちになっているのに九能先輩本人は思い出せていない。
キスしたこともデートしたことも思い出せないのは少しだけ寂しいけど。九能先輩の極めようとした剣技を見たいという気持ちはある。
「しかし、どうしたものか。天道く」
「スイカ島と言えば一文字流の奥義を学ぶ場。徒手空拳を旨とする我ら無差別格闘流、武具を使うシャンプー達もそう易々と踏み入る事の出来ぬ場所の筈だ」
「って事は槍使いの糸色も無理なわけか」
「何言ってるのよ、乱馬君。糸色家と言ったら武芸百般。芸能、政界、産業、あらゆる分野に精通している大名家じゃないの」
「ちなみに九能家も百余年続く名家かな」
「お、おお、すげえな」
家柄自慢は好きじゃないけど。
訂正する部分は訂正しないとダメかな。
───けど、私は覇極流と破傀拳の二種類だ。スピードを活かして戦える動きもそうだけど。日本刀を使う流派なら北海道の糸色家は秀でている。
あと雅楽の才能もそちらが凄いかな。
この前、生まれたっていう類様の娘は景様の患っていた不治の病を発症しているらしく、類様の『癒やしの力』で命を繋いでいるそうだ。
「なあ、早乙女乱馬よ」
「何だよ、ムース」
「今の記憶を失くした九能ならオラ達でも容易く倒せるのではないか?」
「お前、姑息すぎだろ。よし、やるか」
「恋人の前でよく言えるかなあ」
鞄の中に槍を仕舞ってなかったら、まとめて突き刺していたよ。そう早乙女君とムースの肩の関節を突いて、痛みに呻く姿に溜め息を吐く。
「あかねさん、シャンプー、二人の肩を出来るだけ痛く嵌めてあげてもらえる?」
「わかったある!」
「ま、まつだはがぎゃあ!?」
「あ、あかねは優しくしてくれるよな?んぎゃあっ!!?」
「するわけないでしょう。全く切さんが困ってるのに悪ふざけしちゃって!」
二人のお仕置きを受ける姿に溜飲が下がる。
それにしても、九能先輩は思い出せないのに私のお膝の上に頭を乗せたまま動かないな。なんでだろうと下を向けば九能先輩が動かなくなる。
暫くして、バタバタと足が動き、止まる。
「九能先輩、どうかしたの?」
「切さん、窒息するから上半身起こして」
「え?」
海に使ってるわけじゃないのに、どうして窒息するの?と戸惑いながらも小鎌さんの言葉に頷いて、上半身を起こすと顔を真っ赤にした九能先輩がいた。
「……天国が見えた」
「そりゃあ見えるでしょうよ」
天国って見えるの?