「僕のためにすまないな」
「フフ、良いんだよ」
胴着姿のまま砂浜に座す九能先輩の隣に座っていたとき、緑と黒の丸いものが、スイカが此方に向かって放り投げられてきた。
「のわあっ!!」
「食べ物を投げるのは行儀悪いかな」
ピコレット・シャルダンと戦ったときに身に付けた行儀作法は覚えている筈なのに、いきなりスイカを投げつけるなんて酷いんじゃないかな。
そう不満に思いながら早乙女君を見遣ると「コイツはスイカに頭を潰されてたんだ。だったら、もう一度同じことをやれば起きる筈だぜ!」と言い返してきた。
いわゆるショック療法というやつだね。
「日頃の恨みだぁ!」
「日頃の事など覚えとらんわ!!」
「九能先輩、がんばって!」
早乙女君なりに九能先輩を助けてくれようとしているんだと納得し、スイカを投げつける早乙女君を見つめ、必死に逃げる九能先輩を応援する。
今の私に出来るのはこれだけ。
それに、何人かが九能先輩を見ている。
九能家は剣術名家だ。
宝剣宝刀聖剣魔剣妖刀聖刀何でもござれな、刀剣というものに愛された人間が生まれやすい。毛色は違うけど、糸色家と殆んど同じだ。
彼の極めようとした奥義もひょっとしたら誰かが狙っていた可能性もあり得る。もしくは、九能先輩を選んだ剛刀「風林火山」を狙っているか。
「い、いい加減にせんかァ!!!」
その怒声と共に振り抜かれた木刀は強烈な剣戟を生み出し、スイカを粉微塵に切り裂き、早乙女君の身体に無数の切り傷を刻み付ける。
「旋回剣!?」
思わず、技の名を叫んだ瞬間、人混みに紛れていた三人の動きが固くなり、小鎌さんと句君の二人に目配せを送って私も九能先輩に向かって走る。
「九能帯刀、その首貰ったァッ!!」
「覇極流、蛇轍槍!!」
九能先輩を狙う相手に向かって如意棍槍を引き伸ばし、十節棍の如く関節を分離して変幻自在の突きを見舞い、吹き飛ばす。
「油断も隙も無いかな」
「ぼくは、何者なんだ?」
「九能先輩は私の大好きな人だよ」
そう言って彼の手を握り、傍迷惑に襲ってきた相手の顔を見ても分からない。糸色家の関係者じゃないということは最後の一人の関係者だろうけど。
真っ先に九能先輩を狙っていた。
お父さんの言っていたように姑息すぎるね。
ゆっくりと槍を縮めて木刀を握ったまま困惑する九能先輩の顔を両手で優しく包み、ぎゅうっと抱き締めてあげる。お母さんにしてもらった。
一番安心できる方法。
「大丈夫だよ。絶対に戻るからね」
「……懐かしい気がする」
まあ、よくハグしていたからね。