「よっ、と」
「眼鏡が…」
「此方に落ちてたわよ」
私達は桃幻郷の幻術王子を名乗る「とうま」の花嫁候補として仕方なく着いてきたというのに力任せに突き落とされ、人混みの中に混ざっている。
とうま。桃を磨くと書いて、桃磨と読むそうだ。ただ、あの妖刀と幻術の事を考えると、かなり手強いかな。九能先輩達は無事だと良いんだけど。
「あかねちゃん!」
「右京、良かった。無事だったのね」
「ウチは無事やけど。シャンプー達は何処に居るんか分からへんね。切ちゃんは、その手錠どないした?」
「私が一番強いから警戒されてるだけかな」
もしくは、別の何かに渡すために私や小鎌さんを狙っている可能性もあるけど。この島、不自然な臭いが多すぎる。まるで生きているみたいな……。
「両手を使えない切さんを守るとして、あかねさんや右京さんはシャンプー達の捜索を頼めるかしら?私は人妻だから選ばれないだろうし」
「「人妻フェチは業が深いわね」」
あかねさんと右京さんの呟きに私は「ふぇち?」と小首を傾げながら、どうにか手枷を外す方法を考えていると部屋の明かりが点いた。
桃幻郷。
無人島を支配する鎖国国家かと思えば近代的な電気を扱える。益々分からないかな。こんな無人島に引きこもらず、素直に出歩いて好きな人を見つければいいのに。
「…切さん、何人か此方を見ているわ」
「うん。気付いてるよ」
「多分、切さんを追跡していた奴らの何人かが捕まったと考えるべきなんだろうけど。かなり衰弱しているわ、何か居るのは間違いないわね」
そう言って周囲の警戒を強める私達の雰囲気に気づいたあかねさんと右京さんも周囲の警戒を始める。桃磨も玉座に座ったまま何かを話している。
マイク越しだけど。
あまり聞こえないかな。遠くにいるのもそうだけど、私と小鎌さんを隔てる見えない壁があるように感じる。そんなものは無いのに、違和感がある。
「(蛮竜を呼ぶ?)」
いや、こんなに人の多いところでは呼べない。
「切ちゃん、シャンプーが居りそうな場所とか分からへん?ウチらだけやと見つかりそうにないし。かすみさんやなびきさんも心配やねん」
「……かすみさんなら彼処にいるかな。ほら、料理人っぽい人と話しているし」
「お姉ちゃん、危機感を持とうよ……」
「流石は天然ね。強いわ」
私達はかすみさんが無事な事に安堵しながら、天道先輩を探していると複数の男を従える女性を見つけた。あの句君を虜にしてしまう女の人だからね。
少し予想はしていたけど。
「なびきお姉ちゃんまで……」
まあ、無事で良かったんじゃないかな?