ドクンドクンと鳴動する蛮竜を伝って私の身体の中に熱く熱く怒りと憎しみ、殺意の混ざった妖気が溢れ、ズキリと左目が痛み始める。
ほとんど見えていない左側が、更に見えなくなった。ううん、暗い。左側だけが暗闇に呑まれたように見えない。妖気を留めきれず、左目を失った。
やっぱり、後悔する?
白童子の口車に乗って片目を失う。そんな覚悟なんて持っていなかった。───けれど。見えないなら見えないなりに動けば良いだけだ。
蛇舌、大気を呑む。
そう教わったように舌を使えばスネーク拳を学んだ私は見えなくても相手の位置を把握できるし、バット拳の反響定位を使えば正確に見える。
「切、儂の方に手を伸ばせ」
「? こう?」
「お主の傷は儂が請け負おう」
そう言うと白童子の左目の色が薄まり、私の左目が少しだけ見えるようになった。以前と変わらないから、そう身体が認識しているのかな。
「白童子、ありがとう」
「気にするな。儂はお主を知っているからな……いや、お主に似た面立ちの女によくしてもらったと言えば良いのか。それだけのことだ」
そう言って白童子が含牙戴角を繭に突き立てた瞬間、繭から青白い腕が飛び出し、彼の身体を貫き、無造作に吹き飛ばした。
「チッ。不完全に目覚めたか」
「グガ…ギギッ…!」
「うわあ、すごいネバネバしてる」
生理的な気持ち悪さに顔を背け、ずるりと這い出てきた飛妖蛾に突き立てていた蛮竜を引き抜いて、窯の外に飛び出すと同時に無数の蛾の群れが窯の中に飛び込んでいく光景に口許を押さえる。
「切君ッ、戻ってきたのか!」
「良かった、九能先輩も無事だったんだね」
ほうっと安堵しながら窯を見据える。
「倒しきれなかったのか?」
「うん、ごめん。無理させるかも」
「構わん。いざとなれば刀を抜くまでよ」
刀。
確かに、満願丸を抜けば飛妖蛾の復活を止めることは可能かも知れないけど。
流石に、コイツらを止めるには願いが足りない。
「切、持っていろ」
「含牙戴角?」
投げ渡された薙刀に触れた刹那、蛮竜が鳴動し、黒い刀身に変わったかと思えば黒い刀身が含牙戴角に吸い込まれ、私の身体に掛かっていた負荷が収まり始める。
「(冥道の力を別けた?)」
妖気は以前と変わらない。いや、むしろ飛妖蛾の妖気を吸った分、強さを増している。
「来い。羽虫、寝起きの運動を手伝ってやる」
溶解と再生を繰り返す飛妖蛾を手招きする白童子に煽られ、恐ろしい咆哮を上げ、不完全に広がった羽を揺らして巨大な上半身が窯から出てくる。