九能先輩達と別れて、私は桃幻郷の図書館にやって来ている。どれもこれも古い本ばかりだけど。初めて見るモノや知っているものも幾つか在った。
ふと、本を読む手を止める。
「誰かな?」
「失敬。お邪魔だったかね」
銀色の蝶が舞う。
人とは違う匂いと気配に警戒心を抱くものの、ペラリと本のページを丁寧に捲って、優雅に読書を楽しんでいる蝶々を模したお髭の素敵なおじ様を見据える。
「……貴方が、バタフライ?」
「如何にも私の名はバタフライだ。だが、しかし、君の想像しているのはドクトル・バタフライ───つまるところ、私の父親に該当する男だ」
「お父さん……じゃあ、貴方は?」
「マスター・バタフライ、私の同胞達は親しみと尊敬を以てそう呼んでくれているよ」
そう言うと本を閉じて立ち上がった彼の背丈に驚く。九能先輩より大きい。180……ううん、ひょっとしたら2メートルに届いているかも知れない。
紳士然とした態度と相俟って、その威圧感に少し気圧されてしまい、槍を抜き掛けてしまう。けど、この人は百年も糸色家と仲良くしている蝶野家の人間だ。
「そう怯える必要はない。私はあるものを探しにやって来ていただけだからね」
「それは?」
スーツの内側に手を差し込み、彼の取り出したものに小首を傾げる。刀の柄?鍔も刀身も存在しない変なモノを訝しんでしまう。
「かつて存在した刀の柄さ。父が探している道具の一つでね。桃幻郷に在ると聴いて、遠路遙々やって来たというわけだ」
「なるほど、どういう代物なの?」
「今の君に教えることは出来ないね」
「そう、なんだ」
ちょっとだけショックを感じるけど。
そういうこともあるよね、と納得しながら本棚に読み終えた本を戻し、九能先輩の足音に耳を傾ける。私の事を探しているのか。
とても早歩きですね。
「ムッ。ここにいたのか」
「はい。此処に居ましたよ」
「……誰かと話していなかったか?」
九能先輩は図書館の中を見回すも誰も居らず、机の上に銀色の蝶が羽を振るわせて、ゆっくりと飛び立っていくところを見るだけだった。
やっぱり、気のせいではないかな。
「九能先輩、刀身の無い刀って知っている?」
「問答か?……いや、僕は知らないな」
何も隠している様子はないから、本心なのは分かるけど。かなり考え込んでいる。いや、何かを知っていたら大変なのかも知れないかな。
「しかし、悩ましいかな」
「なにがだ?」
「本の順番がバラバラすぎる」
「まあ、浮島となれば仕方ないのかも知れん」
それでもだよ。