「玄馬さん、何してるの?」
「ムッ。その声は糸色さんか。少し乱馬のバカに灸を据えているところだ」
「ぢ、ぢぐじょおぉ……」
空き地の地面に倒れ伏した早乙女君の背中に乗り、腕を組んで座っている早乙女玄馬は自分の顎を撫で触りながら、早乙女君の事を見下ろす。
「なんでだ?地獄みてえな激獣拳の修行をこなした筈なのに、白虎のオッサンにも技を見せて貰ったのにッ、なんで親父に勝てねえんだ!?」
ドンと地面を殴って嘆く早乙女君。
「乱馬よ、お前は小手先小足先の技に頼りすぎている。なまじっかお前は天才的な格闘センスを持って生まれたせいか。技の練度にムラがあるのだ。早乙女流の技だけでなく、数多の技を覚えた弊害とも言えるか……」
「まさか、そんな…?」
「私も修めるのは破傀拳と覇極流の二つかな。獣拳は普段の私生活を補助し、心技体の三位一体安定できるように学んでいるわけだし」
「ぐっ、ぐぬうぅぅ…!」
「まだやる気だな。よし!」
悔しそうに唸る早乙女君は腕立て伏せの要領で早乙女玄馬を押し退け、素早く構え直す。
「親父や糸色の言う通りだ。オレは目先の派手な技に固執していたし、新しい力を……激獣拳を学んで親父より強くなったと傲っていた。────だが、この傲りも引っ括めて、オレ自身だ!!」
刹那、轟轟ッ!!と激気が弾ける。
オレンジ色や赤色とは違う。
蒼天の様な青色と臨気の様な紫色が弾ける。
「青紫色の激気?いや、臨気?」
「アレは乱馬独自の激気じゃ。怒りも憎しみも妬みも引っ括めて自分と認めた。言わば乱馬の宿す激気と臨気の融和した状態、名付けるならば多彩な空の移ろいを受け入れる蒼穹の器『
「マスター・シャーフー、いつの間に?」
「散歩がてらの今さっきじゃよ。切ちゃんも以前の形なき激気よりも電光の如く鮮烈さを纏い始めているようで、ワシは嬉しく思うぞ」
「ありがとうございます」
そう言ってマスター・シャーフーから早乙女君に視線を戻す。
自分の心に巣食う悪感情を勇気を以て、『怒り』も『憎しみ』も『妬み』さえも呑み込み、自分と受け入れた蒼穹のごとき激気─────。
「カッコいいじゃんね。早乙女君♪︎」
思わず、そう言ってしまうほどに。
「行くぜ、親父ィ!!」
「良かろう!!」
二人は言葉を一合だけ交わした次の瞬間、目にも止まらぬ早業が目の前で繰り広げられる。特A級の達人たる早乙女玄馬に、早乙女君の動きが拮抗している。
苛烈さを宿す穹激気は揺らめき、虎の尾のごとく風に靡き、振るう腕に激気が重なり混ざり、凄まじい破壊力を生み出している。
これは、ひょっとするかな?
【概要用語解説】
本作の単語や転生者に関する事を解説します。
【蒼穹】
青空を意味する言葉。
【穹】
空、天井、極まるを意味する言葉。
【
青紫色の激気。
自分自身の持つ悪感情を受け入れ、激気と臨気の融和した状態と言える激気。空の天気のように移ろいやすい感情を一つに引っ括めて自分と認めたもの。