「……ッ、ここは?」
「目が覚めたか」
首筋に痛みを感じながら、見覚えのない部屋と天井に頭を押さえつつ、布団を押し退けると、宗達君が正座して私の真横に座っていた。
……だんだんと思い出してきた。
私は不意打ちを受けて、気を失った。不覚、あまりにも不覚すぎると反省しつつ、立ち上がってスカートに手を伸ばすも槍が一本もない。
「すけべ、変態、変な前髪」
「変な前髪ではないぞっ」
「女の子を襲う時点で変態の変な前髪かな」
そう言って、わたしは部屋の出入り口に向かおうとした瞬間、手を掴まれる。九能先輩とは違う、男の人の純粋な力に思わず、手をはね除けてしまった。
「………私に触って良いのはタッチーだけだよ」
「昔と変わらないな。これほどまでに好いているのに、君の目に映っているのはいつも帯刀だ。私がどれだけ修練を重ねて来たと思っている」
そう言うと彼は懐に仕舞っていた巻物を取りだし、慈恵院流格闘書道免許皆伝の文字、それから当主に成った証を突き出してきた。
全部、私のためにって言いたいのかな?
「好きだ。愛している」
「ごめんね。私はタッチーが好きなんだ」
そう言って謝るものの、諦めてもらえる気配はない。友達を傷つけることはしたくないけど。こうなったら実力行使してでも帰るしかない。
破傀拳の構えを取ると同時に彼の顎先を狙う。が、手首に筆が当たると私の身体は反転し、畳に向かって叩き落とされた。
「かはッ…!?」
「止めておけ。私は達人級だ。今の妙手に位置する君では絶対に勝つことは出来ない。さあ、諦めて私と結婚してくれ」
「ッ、くぅ…お断りします、かな!」
宗達君の足を蹴り払ってバランスを崩したところへと破槍突を繰り出すも腹筋を貫けず、私の振るった金剛指が逆に負け、関節を壊され掛けた。
戟號とは違う、本気の達人級の人間────。
「いい加減に諦めろ」
「諦めるのは己だァ!!」
襖を切り裂いて飛び込んできた九能先輩に、ほうっと安堵の吐息を吐いて痛めた指をスカーフを巻き付けて、固定しながら九能先輩の傍に立つ。
「貴様、よくも僕の可愛い可愛い切君を拐ったな。名を名乗れぇい!!」
「九能先輩、九能先輩、あれは宗達君です」
「なに?………………あれがバカ笑いの宗達だと!?」
「誰がバカ笑いの宗達だ!!」
驚愕する九能先輩と、怒る宗達君。
奇しくも長野県の糸色本家で数年を過ごした幼なじみが揃っている。けど、今回の再会は、少しだけ私も九能先輩も宗達君も状況も立場も変わってしまっている。