「何故、宗達が切君を狙う!」
「私も許嫁の一人だからだ」
その言葉に九能先輩は私を見遣る。
頷き、彼の言葉を肯定する。
「子供の頃、ずっと見続けていた青空の様に澄んだ彼女と過ごす日々が私の人生を色鮮やかに彩り始めてくれた。彼女に相応しい男になろうと努力し、修練し、ようやく切を守る力と立場を手に入れた。───だというのに、私の進むべき道にお前が出てきたのだ。何故、お前が切の隣に立っているんだ。九能帯刀ッ!!!」
流石にいつもと違って、すごく動揺する九能先輩と私に近付いてきた宗達君は九能先輩の襟元を掴み、額をぶつけ合いながら吠える。
その表情は怒りと憎しみだけ────。
私は何かを言おうとしても言葉が出ない。さっきまで倒してでも逃げようとしていたのに、彼の目を見ると今までの人生を私のために費やしていたのだと分かってしまうから、どうしても言えなかった。
「宗達、確かに僕は切君と交際し婚姻を結んだ。だが、お前は何をしている?僕は好いた女性を悲しませ、涙を流させる男に愛を語る資格など無いわ!!」
九能先輩が宗達君に頭突きを返し、お互いに額が裂け、血が眉間を伝い、頬や鼻筋を降り、唇に触れる。
「私はお前が嫌いだ。私の方が先に出会っていた筈なのに気づけば彼女の瞳はお前だけを捉えて、左目が色を失う前に見たものもお前だけだ」
「宗達、僕も君が嫌いだ。好きな女の子を泣かせた時点で貴様は他の許嫁達と違う。お前は彼女を奪う土俵にすら立っていない」
「その土俵に土足で入ってきたのは誰だ!」
「無論、僕だ。僕は切君を愛している。しほちゃんと呼んでいた頃から、ずっと彼女の事を見続けていたのはお前だけではない!」
「ふ、二人とも落ち着こう?」
「「断る!!!!」」
そう言うと九能先輩は剛刀「風林火山」を上段に構えて、宗達は背中に背負っていた大筆を薙刀のように構え、お互いを睨み付ける。
「千手観音突きィ!!」
「格闘書道奥義、楷書拳ッ!!」
高速の突き技の応酬に思わず、私は目を見開きながら突きの速さで競り負けた九能先輩に駆け寄ろうとした瞬間、畳に朱墨が一文字を描く。
「その先に踏み入るな。切、これは私と帯刀の絶対に譲れぬ戦いだ。お前は静かに、そこで勝つと信じた者を待っていれば良いのだ」
宗達君がそう告げると九能先輩は血を吐き、風林火山を杖代わりに立ち上がり、ゆっくりと正眼に木刀を構え直しながら、今度は得意技の突きではなく別の攻撃を試すつもりみたいだ。