「……断って良かったのかな?」
「不安げに見てきたのは切君だろう。僕は君という女の子に恋をしている。いや、愛しているのだから、誰かに見向きする事は決してないさ」
「なんだか、最近私ばっかり恥ずかしさを感じる」
そう不満げに言えば九能先輩はクツクツと笑ながらテーピングを巻いた右手で私の部屋頭をワシャワシャと撫でてきた。むう、丸め込まれた気がする。
そう不満をこぼす私達の目の前を京子さんが通りすぎ、その後ろをシャンプーや右京さん、あかねさんが追いかけて走り続けている。
多分、ちょっかいを出したんだろうね。
「ひえぇぇーーーっ!!!」
「待つよろし!」
「乱ちゃんに近付こうとはええ度胸やないの!」
「勝負なら受けてあげるわよ!」
しくしくと半泣きで走る京子さん。
「な、なんでこんなに多いのよ!?全員彼女がいるなら所有権示しなさいよ!!」
また、変なことを叫ぶ彼女に苦笑を浮かべつつ、兎に角、助けた方が良いかな?と思っていたら、よく喫茶店アミーゴにいるゴム手袋のお兄さんが、京子さんに向かって拳骨を落とした。
「いぎゃんっ!?」
「悪かったな。ウチのバカが余計なちょっかい掛けちまってよ……お前、並行世界の自分が失敗したところ見てたろ。なんで学習しねえんだよ。いや、南蛮ミラーを勝手に使ってたし、別人で良いのか?それと優勝おめでとう。九能」
「ひっく、えぐっ、アイツら絶対なかしてやりゅぅ……」
「うむ。この前の指南は助かった。ありがとう!」
「止せって、俺は普通のことしただけだ。京子も悪気はねえから、アンタらも許してやってくれ。コイツ、少女漫画に憧れてんだ」
「「「ああ、そういう」」」
「待って、私の株価が!?」「元からねえよ」
まるで、猫みたいに襟首を捕まれて連れていかれる京子さんの姿にクスクスと笑いながら、ヒラヒラと彼女に手を振ると涙を目尻に溜めた京子さんは、ちゃんと手を振り返してくれた。
それにしても、初めて喋ったけど。
意外と優しそうなお兄さんだったかな。私の周りにいた年上の人達は大体私利私欲のために私の事を狙っている人ばかりだったから、すごく困るかな。
それに、悪いのは野心家だからね。
「九能先輩、あのオッサンも格闘家なのか?」
「いや、整備士を名乗っている。現に喫茶店近くにある整備店の店長を勤めている人だ。僕のクルーザーも彼が直してくれたのだ」
「マジか!?」
「あれ、直るものなのね」
それについては私も同じ反応かな。
本当にどうやっているのかと聞きたくなるような新品同様の直し方に私も驚いたし。眼鏡のフレームやレンズだって簡単に直してくれた。
シゲルさんは、とても優しいお兄さんなんだ。