「反転宝珠?」
「左様。シャンプーの身に付けているブローチは人間の好意と悪意を入れ換える女傑族の秘宝。ワシの譲った貴金属の中に紛れ込んでおったんじゃろう」
「人の好意と悪意を入れ換える道具とは面妖な。だが、切君には絶対に着けて欲しくない代物だ。僕への愛が裏返るなど耐えられん!!」
クワッと強張った顔を向ける九能先輩に苦笑を浮かべつつ、手を握って「そんなものは着けないかな」と言い、九能先輩と一緒に猫飯店を出る。
少なくとも周囲に害意を及ぼさない。装着しないと意味を持たない道具ということは分かったかな。あとは、どうやって外すか……。
いや、普通に外れるかな。
お風呂に入るときにブローチを着けるはずないし、そのときにお婆ちゃんが取り返してしまえば何も問題はないはずだけど。
流石に、そう簡単にはいかない。
「さて、どうしようか」
「僕と君が言えば渡してくれるだろうが、おそらくムースは妨害を始める。早乙女乱馬かあかね君のどちらかに手伝って貰うのは必須だろう」
やっぱり、そうなるわけだね。
しかし、本当にどうやって取るのかが問題だ。私達が一斉に捕まえようとしたら、シャンプーは逃げるだろうし。どうにかしないといけない。
更に言うと捕まえるときにブローチを誤って着けてしまった場合、もっと悲惨なことになるのは分かりきっているとも言える。
「早乙女君、余計な事をしないといいけど」
「おそらく無理だな。早乙女乱馬は自分を嫌うはずがないとバカみたいなことをする。切君は危なくなったら逃げることだ」
「ありがとう。そうするかな」
「うむ。中国四千年の歴史を持つ道具の効果とはいえ君に嫌いだと言われるのは辛い」
そんなに昔じゃないのでは?と小首を傾げながら、九能先輩の言葉に頷いていると、もうすっかり遠くに見える猫飯店から早乙女君の悲鳴が聴こえてきた。
ものすごく怒っているね。もしもあれをあかねさんに着けたらどうなるのかな?と想像し、ちょっとだけイヤな予感を抱いてしまう。
「そういえば切君に聞いておきたいことがあるのだが、構わないだろうか?」
「なにかな」
「僕と一緒に住む家はもう決まったかい?」
「えうっ?!」
「ムッ。お義父さんに聞いていないのか」
き、聴いていないかな。どうして、そんなことをお父さんは九能先輩にしているのかな?そ、そんな、破廉恥な事を聴くなんてダメだよ。
ちょっとだけ不安げに彼を見上げる。
「……一緒に住みたいの?」
「う、うむ、僕達は夫婦だからな…」
「そ、そうだよね、えへへ」