「本条家は『糸』に連なる家系を守護する役目を百年前より担う一族だが、此度の件は手を引いて欲しい。何より糸逢家は踏み入るべきではない」
「私個人ではなく糸逢家その物を警戒していると認めているように聴こえるけど。本条鎌一、貴方の目的を素直に教えなさい」
「決まっている。家族の安寧だ。天道と早乙女の両家に関わると録な目にしか遇わん。そもそも九能家と婚姻を結んだ今、貴女の命令を聞く意味はない!」
そう言うと本条鎌一は力任せに私の身体を掴み上げ、窓の外へと放り投げた。ここ七階なんだけど、本気で私を殺そうとしているかな。
如意棍槍を引き伸ばしてマンションの外壁に突き立て、緩やかに石突きの上に立つ。
「親の子を思う気持ちを分かったと言えるほど私は成長していないし。況してや親になった事もない。だけど、貴方の言っていることは間違っている」
「貴女こそ逃げ場を失っていること忘れていないか。私が槍を蹴れば貴女は地面に真っ逆さまに落ちる。唱、句、お前達は手出しするな」
「お父さんっ、だけど、切さんは私達の!」
「親父、切ちゃんは俺達の主人だぞ!?」
「諄い。今の彼女は九能家の人間だ」
二人の言葉を無視する本条鎌一。
「確かに、私は糸色家の受け継ぐべき名前を受け継げる立場だと言うのに逃げているし。好きなように生きることを優先して、この町に来たのもお父さんに反抗したからだよ。二人の未来だって縛り付けている。────だけど、私は逃げても逸れても進んでいる!」
赤々と胸の奥に秘めた『鍵』は発光していく。
「お婆様が言っていたかな。人生とはゴールを目指す遠い道…重い荷物は捨て、手ぶらで歩いたほうが楽しい。二人は貴方に重荷を背負って貰うほど弱くない」
私の言葉に押し黙るように見えた刹那、本条鎌一は私の立つ槍を掴み、真上に向かって放り投げると同時に屋上の方へと落とした。
緩やかに落ち、着地すると既に彼は目の前に大鎖鎌を握り締めて佇んでいる。やっぱり、二人に格闘技を教えたのはこの人だったんだね。
「来なさい。その減らず口を正してやろう」
「減らず口で結構かな。私の気持ちは変わらないし、二人のためなら悪道を突き進んだって構わない。小鎌さんも句君も私の大事なお友達だから」
そう言って槍の切っ先を突きつける。
相手は、本条家の前当主。
かつてはお父さんの付き人として過ごしていた人間の一人だ。だというのに、どうして?小鎌さんと句君の二人の幸せを邪魔するの?
どうして、みんな素直に祝ってくれない。