「糸色殿を気を失うほど強烈な一撃を見舞う相手に、婿殿は挑むというのじゃな?」
「当然だ。どっち道、アイツに聞かなきゃいけねえことは沢山ある。特にオレの身体を女に変えたままにしやがったあの桶はブッ壊す!」
「待ってちょうだい。止水桶を壊す前には私に使ってもらえるかしら?」
「姉ちゃん、まさか女のままに?」
ギャーギャーと騒ぐ声に痛む身体を押さえながら上半身を起こし、ゆっくりと砕けた眼鏡のレンズをなぞり、布団を押し退ける。
よく見れば身体中に包帯を巻かれ、黄金の龍を受けたときに盾に使った右手は完全に砕け、二重の極みを撃つことも槍を振るうことも出来ない。
「……みんな、少しうるさいかな」
「切さん!良かった、起きたのね」
「
私の方に駆け寄ってくれたあかねさんとシャンプーの二人に肩を借り、女の子の姿で私と同様に傷だらけでボロボロにされた早乙女君と目が合う。
「糸色、おめえはアイツの技を知っているか?」
「ごめん。私も知らない。だけど、ウチに住んでるライム君なら知っているかも」
「ライムなら向こうに着いた。切ちゃん、アイツは元々麝香王朝の人間だ」
麝香王朝。
確かに、獣拳の歴史書に載っていた名前だ。獣の力と心を手にする拳法と違って、獣その物に成る事を選んだため、人の身を捨てた拳法集団────。
マスター・シャーフー、バット・リー様の助言を聞きたいところだけど。今は何処にいるのかも分からない。新しい弟子の育成に励んでいるだろうし。
「問題は、彼女の流派かな」
「極みの拳。幻獣拳、麝香王朝の長は代々龍の力を受け継ぐ存在だと聞いておったが、あの黄金の龍闘気を見るに間違いなくあやつは龍であろう」
そう、例えるなら幻獣ドラゴン拳だ
激獣と臨獣の二つとは違う。
少なくとも私のスネーク拳は太刀打ち出来る領域には到達していない。タイガー拳やライオン拳もまたドラゴンの前に立つには力不足だ。
「向こうも龍なら、此方も竜で行こうか」
「糸色殿、何か策があるのか?」
「少なくとも私は負けて泣き寝入りするほど柔じゃないし。ライム君を連れていくと言ったのなら、おそらく向こうは四人組になる」
早乙女君も響君もムースも負けたまま我慢できるなんてことはない。しっかりとやり返すために、私は絶対に負けるわけにはいかない。
「何より極みの拳に興味もあるからね」
小鎌さんと句君に「私が勝つために手伝ってくれる?」と聞けば「委細承知」と言葉が帰ってきた。