麝香王朝の長「ハーブ」の率いる人間と動物の混血児達、そして早乙女君の男の子としての身体を取り戻すために麝香王朝の秘宝の場所を記した地図を手懸かりに、私達は進んでいた筈なんだけど。
「なんでオラ達は旅館に泊まっとるだ」
「知らん。あと後ろに振り返るなよ」
「あはは、まさか男湯が壊れるなんてね」
「わ、悪いな、糸色」
早乙女君達の喧嘩によって旅館「芋づる」の男湯は半壊してしまい、私の用意していた旅費の殆んどを使って賠償する事になった。
ただ、お風呂は混浴になってしまったけど。
「おめえら、糸色に感謝しろよ」
「貴様に言われんでも分かっておる!」
バシャバシャと岩影の向こう側で騒がしく聞こえる水の弾ける音に溜め息を吐いていたその時、カラカラと露天風呂の磨りガラスの戸を開け、別のお客さんが入ってくるのが湯気の向こうに見えた。
スネーク拳とバット拳の反響定位は熱気を受けて上手く作動しておらず、私の視界は右側にどうしても偏ってしまっている。
左側に座った女性に「混浴なので騒がしいね」と話しかけると「……男など騒々しいものだ」とお客さんが言った刹那、イヤな視線を感じて目を凝らす。
「……ライム君、覗きなんて最低かなあ」
「キリちゃん!?」
「ライム君が居るってことは貴女はハーブかな?」
「あの店で戦った女か……はしたない!」
美肌効果の温泉には浸かりたいじゃない。
そう思いながら岩影の向こう側で戦う音が聴こえる。
「私と戦うのは後にしてほしいな。今は少しだけ聞きたいことがあるからさ」
「フン」
「フフ、ありがとう。……ね、極みの拳って何なのか教えて貰えたりする?」
「何を問うかと思えばソレか。幻獣拳は、只の獣の拳とは違う。この世に存在する13体の幻獣を手本とした流儀だ。ドラゴン拳を受け継ぐ私は世界の調整者。幻獣の王を探す旅をしなければならん」
「幻獣の王?」
幻獣の王さま。
しかし、この御時世に王さま足り得る人間は少ない。おそらくその人は世界最強でなければいけない。最初に浮かぶのは妙様と類様だけど。
強さだけで言えば早乙女玄馬や天道早雲という強さと優しさを兼ね備えた大人を私は知っている。だけど、幻獣の王さまともなれば超越した強さ────。
おそらくハーブを超える強さが必要だ。
「目星はあるのかな」
「ああ、ドラゴンの天啓は受けている。あと数ヶ月後に獅子の鼓動を宿す少年が私の前に現れる。その時のために私は戻らねばならぬのだ」
そう言うと彼女は露天風呂を出ていく。