「オレは、麝香王朝の人間だから、長に従うのはあたりまえの事だから…!」
「……えぇ、貴方は間違っていないのかも知れないわ。だから、貴方の不安も焦りも恐れも全てを受け止めてあげる。掛かってきなさい、ライム」
そう告げると彼の顔付きは私達と過ごしていた穏やかな顔ではなく戦士としての相貌を浮かべ、両腕を下ろし、両手の爪を闘気で研ぎ澄ます。
振るわれる豪腕を受けず、手のひらを添えて勢いを助力するように往なし、がら空きの横面に縦拳を叩き込み、続けざまに五発のパンチを打つ。
「ルォオッ!!」
「くっ、流石…!」
押さえ込んだはずの腕を振り上げ、私の合気を力任せに押し返したライム君の豪腕に笑みを浮かべながら、空中で反転し、岩肌に二本の槍を突き立てて、柄の上に着地し、ゆっくりと眼鏡を外す。
カコンと舌を鳴らし、目を閉じる。
視野角の拡大化。
全てを見据えて、相手の動きを見定める。
「ガアァッ!!」
獰猛な虎を手本とした動きは爪牙を用いる技に限定され、爪の破壊力は豪腕もそうだけど。両腕のスウィングの速さと身体の重心移動の巧みさも必要としている。
「常山の蛇勢って諺知ってるかな。意味は『数が多ければ力を発揮できる』だよ!!」
竜頭拳と蛇咬拳の手形を入れ換え、素早くライム君の身体に向かって打つ。────否、この場合は射つと例える方が良いのかな?
「臨獣スネーク拳には毒を利用する秘伝技を伝えているそうなんだ。私の身体にも毒を作り出す器官はあってね。今射ったのは麻痺毒かな」
ズシンと音を立てて膝を突き、倒れそうになるライム君の頭を優しく胸で受け止めてあげる。貴方は私を倒すために全力で頑張っていた。
だから、問題ないかな。
そう考えながら、其々の場所で戦う三人の事を見る。ハーブと早乙女君の戦いは正に竜虎相搏つだけど。このイヤな予感は何なんだろう?
私の不安に相反して、ハーブに接戦する早乙女君の激気はやっぱり青く光り始めている。早乙女玄馬と戦っていたとき以降、一度も使えなかった力を、この土壇場で使えるようになったんだね。
「(飛竜昇天破……これで終わりかな?)」
ほうっと安堵したその時、ドンと私は背中に衝撃を受け、胸を貫く赤い棒、誰かの腕を見下ろしていた。
「全く私の作った娯楽を崩そう等とふざけた事をしてくれましたね。糸色家、あなた達の血筋は本当に餌に群がる虫のように鬱陶しい」
「ゴポッ…げほ、だ、れ…?」
「ロン。今はそう名乗っておきましょう」
ズルリと引き抜かれた腕の血を振り払い、黄金の闘気を纏って消える「ロン」と名乗った男の背中を見つめ、今も戦っている早乙女君達の方へと手を伸ば