旅館「芋づる」の大部屋を借りて、私達と麝香王朝の人達は向かい合って座っている。浴衣に着替えても視線を感じるのは、本当にやめてほしいかな。
「先ず、何を話そうか」
「私が聞きたいのは貴様の異常な回復力だったが、おそらくスネーク拳の秘伝技の一つだろう。おいそれと秘技を暴こうとは思わん」
「じゃあ、率直に聞くけど。幻獣拳というのは何かな?獣拳四千年の歴史に幻獣なんていうモノを手本とした流派は存在しない」
そう告げるとハーブは怪訝そうな顔をする。
「獣拳の事は私も知っている。しかし、麝香王朝の長は代々龍の血を濃く受け継いでいる。この黄金の闘気を宿すのは幻獣拳の使い手のみだ」
「そっちの三人も?」
「いや、私の配下は幻獣拳ではなく臨獣拳だ。尤もライムは臨獣拳を捨てたようだがな」
チラリとライム君の事を見据え、小さく笑みを浮かべたハーブは「それもまた強さに繋がる道だ」と告げ、お膳に乗ったお刺身を食べる。
気品のある出で立ちだ。
「しかし、麝香王朝の秘宝を取り返す旅と幻獣王を見つけるために日本へ来ていたが、スネーク拳を学んだ人間に出会えたのは僥倖だ」
「私に会えて、僥倖なの?」
「ああ、幻獣拳には幻獣王に仕える四人の拳士を集める必要がある。そして、その拳の型は『蛇の王』バジリスク拳を手本としている」
蛇の王、バジリスク拳?
幻獣王に仕えて支える。
「────フフ、楽しそうだけど。ごめんね、私は高校を卒業したら拳と槍を一旦置くつもりなんだ」
私がそう告げると何故か早乙女君達までビックリしたように私の方を見てきた。そんなに驚くような事を言ったかな?と小首を傾げる。
私は、結婚するわけだし。戦いに身を投じるのは高校まで、大学に行こうかは悩んでいるけど。お父さんとお母さんもできこん?というものだったそうだし。
多分、大丈夫だと思うかな。
「兎に角、蛇の生殺しは人を噛むっていうでしょう?中途半端に続けるよりもキッパリと止める。弱い私もまた私だからね♪︎」
「食えん女だな」
「あ、そうだ。ハーブ、ロンに文句を言ってもらえるかな?いきなり不意討ちをするくらいなら、真っ直ぐ攻撃してくれた方が嬉しいかな」
「ロン?麝香王朝にそんな名前の人間はいなかったはずだが、ミントは覚えているか」
「知りませんよ、ハーブ様。ロン某がいたとしてもハーブ様には関係ありません!」
…………ちょっとキナ臭くなってきたかな?
あの黄金の闘気は間違いなく幻獣拳のものだった。
彼らがウソを吐いているようには見えない。
悩ましいかな。