小太刀さんのよく分からない誤解のせいで私は九能先輩のために実妹と勝負していたという話しになっているけど。そういうつもりはない。
そう伝えるために風林館高校の中庭に用意されたベンチとテーブルにお弁当箱を置き、早乙女君やあかねさん達を集めて九能先輩の対策を聞いている。
「句君、どうしようか?」
「姉ちゃん、頼んだ」
「私に言わないで欲しいんだけど。なびき、貴女九能と仲良かったわよね」
「九能ちゃんはね。バカなのよ、思い込みも激しいし、あかねだけじゃなくて乱馬君にもアプローチを掛けるし、小鎌にモーション掛けているでしょう?」
「「「「確かに」」」」
「でもね。九能ちゃんって『交際しよう』とは言うけど。軽率に『愛している』や『好き』って言わないのよ。何でも幼なじみとの約束らしいけど」
天道先輩の教えてくれた事に感心する反面、その幼なじみと再会したら無事に交際せずに済むのではないだろうかと私は考えてみる。
「その幼なじみは何処に居るんだよ。なびき」
「さあね。私でも知らないことはあるし」
「お姉ちゃん、それ本当の話なの?」
「怪しいわよ。あの九能に幼なじみが?」
「居るって本人が言ってたわよ」
「アスパラのベーコン巻きうめえ」
俄には信じられないけど。
九能先輩はその幼なじみとの約束はしっかりと守っているし、何かとあかねさん達にアプローチを掛けているものの。きっと九能が本当に愛しているし、大好きなのは彼の話す幼なじみのことなんだろう。
「なんだか切ないわね…」
「うん」
「幼なじみか。オレも居たなあ…」
「乱馬にも幼なじみがいるのか。あと、その唐揚げはオレのだから食うな」
「まだあんだろうが。一応な、今は何処に住んでるのかも分からねえけど」
「乱馬…」
しんみりとした雰囲気を打ち破るように、ずずずいっと三つの赤いバラの花束が私達の目の前に突き出され、差出人を見ると剣道着ではなく珍しく制服姿の九能先輩が其処に佇んでいた。
「偶然、手に入れたバラの花束だ。君達に贈ろう」
「わあ、ありがとうございます」
「私まで貰ったら部屋がバラまみれに」
「消臭効果あるんじゃね?」
モグモグと俵型のおにぎりを頬張る句君の頬っぺたについた米粒を取りながら、急がなくても重箱だから大丈夫だと伝える。
「九能先輩も食べる?」
「うむ!恋仲のお誘いは断らんぞ!」
私の隣に座ってきた九能先輩にクスクスと笑いながら、のんびりとお昼休みにお弁当を食べる。こういうのも、青春なのでしょうか?