私の話を聞いていた公紋竜は困惑していた。
まあ、当然と言えば当然だ。自分より強いと思っていた相手が、子供の頃に死にかける様な修行を受けていたと聞けば困る。
最初から強者で生まれるわけがない。生まれながらの強者というモノは、もはや人ではなく修羅や鬼に相当する人達。尤も妙様は本当に生涯無敗だと思う。
「オレに話したところで、なにになる?」
「話すのは良いことです。私の旦那様もこの話しは知っているし、この目の事に気付いている友人も黙ってくれているからね」
「フン。偽善者だらけだぜ」
「ムッ。そういう反応はダメかな?」
ペシペシと床を叩いて座るように言えば公紋竜は渋々と座り直し、住職にお願いしていた薬膳料理を公紋竜の前に並べて貰う。
「早乙女君は強いよ。私と戦った後に身体を整えないと何も出来ずに負けるから、ベストコンディションに戻してあげる」
「……チッ」
またしても渋々と料理を食べ始める公紋竜にクスクスと笑ってしまう。強さを求めるのはいいけど。食べることも学ぶことも休むこともまた修行です。
暮らしの中に修行あり。
モグモグとご飯を咀嚼する公紋竜の視線は私の手足に向き、いつでも動けるように意識を向けている。そんなことしなくてももう君とは戦わない。
弱い人を虐めるのは良くないからね。
「……ちょっと待て、人妻ってなんだ?」
「え?それは、ね?」
ポッと頬を赤らめてしまう。指輪をしていても学校では問題にならないのだ。私服登校はダメだけど、前の学校の制服は許されている。
まあ、聞きたいのはそういうことじゃなくて私の事なんだろうけど。
「私は結婚しているんだよ。ほら」
「……学生だろ、お前」
「フフ、それでも好きになったんだよ」
結婚することは悪いことじゃない。
浮気することが悪いことなんだよ。
私の家系は浮気や不倫を絶対に許さないし。お互いの事を本気で愛して、偏愛的に求めるんだよ。どろどろになるまで愛し合えるのは素敵かな。
「どいつもこいつも愛だ恋だとウゼェ…」
「いつか分かるよ」
私の希望も夢も九能先輩と分かち合うために、また少しずつ私は昔に戻ろうとしている。無自覚で無慈悲で無害で無差別に相手を壊す手を取り戻そうとしている。
「(私の破傀拳はもっと苛烈だった。こっちに来てから、破傀拳は怖さと重さを無くしたけど。だんだんとあの頃に近付いている)」
流石に、まだまだ意識を高めないと手加減した状態に戻っちゃうのは仕方ないけど。もっと、強くならないといけない。