あかねさん達に誘われてやって来たスケートリンクの上を滑る最中、しゃがんだまま氷上を進んでいる先生を見つけ、彼の近くに近付く。
「こんにちは、先生」
「ん。やあ、糸色さん。今日も元気そうだね」
にこやかに微笑んだ先生はしゃがんだまま無動で前に進んでいる。身体の力じゃなくて別の動きで滑っているのかな?と考えながら先生を見下ろす。
「そういえば先生の名前って何だっけ?」
「流石に酷いね?
「壬生先生、覚え直した。ありがとう」
そう言って先生の事を送り出すと目の前に待ち構えていた先生の奥さんが鬼を背負っていた。私に助けを求める先生を無視して、あかねさん達のところに向かう。
「ぷぎ!」
「あかねさんの子ブタ」
「シャルロットはうちの子よ!」
私の拾い上げた真っ黒な子ブタを奪い取った可愛い女の子と目が合う。なんだか我が儘な子供にも見えるけど、同い年ぐらいかな?
「いや、お友達のペットだから」
すいっと取り返す。が、奪われる。
……このまま関節を外してやろうかと思う心を静めて、素早く子ブタを取り返して彼女の視界を避けるようにスケートリンクの上を走り抜ける。
リンクの出入り口を出て、大型暖房の前に立つ。
「あそこの暖房に当たってなさい。まだ小さいんだから風邪を引いちゃうから、ね?」
「ぷぎっ」
「フフ、人の言葉が分かるの?偉いわね」
よしよしと子ブタの頭を撫でていると顔に紅葉を作った先生が隣にやって来て、私達と一緒に暖房に当たり始める。多分、奥さんとのデート中だったんだろう。
かわいそうに。
「糸色さん、僕は思うんだ。この世で一番恐ろしいのは兵器よりも自分の妻だとね」
「本人が聞いてるけど、いいの?」
私は後ろに立っていた厚着の奥さんと先生に手を振り、何か言いたげに此方を見つめる先生の事を見送り、静かに子ブタの事を見る。
「あれ?…どこに?」
いつの間にか消えていた子ブタを探すも何処にも見当たらず、まさか迷ったのかしら?と小首を傾げながらスケートシューズを脱いで、あかねさん達を探す。
いるから、きっと飼い主のところだ。
でも、あの子ブタは響君に雰囲気も似ているし、ひょっとしたら迷子になっているかもしれない。まあ、そのときはまた助けてあげればいい。
それまで、ゆっくりと探そう。
そう思っていると私の事を見る目が増えた。東京に来てから、私の事を見ている人が増えたのは知っているけど。あまりにも人数が多く思える。