「臨海学校なんざ二度と行くか」
「みんな、大変だったんだね」
「糸色はカヌーに乗れねえし、船も無理だから留守番してたんだっけか?」
「うん。三年生に混じって勉強してた」
ほとんどのクラスメートが全身の筋肉痛で休む中、校長先生に攻撃を加えたという理由で補習授業を受ける早乙女君のテストを見守りつつ、私は九能先輩に貰った交換日記を読んでいる。
いつもすごーく可愛いかな。
「テストして何になるんだよ。ったく」
「数学は道場経営に必要だし、国語や物理、現代は指南に通じるし、保健体育は身体の仕組みの解説や健康、地理や歴史は他流派の事も分かるよ?」
「……正論で責めるな。泣くぞ」
「あかねさんが苦労しちゃうからダメだよ」
「けっ。そんなんじゃねえよ」
私の言葉を照れ臭そうに否定する彼の顔を見ながらクスクスと笑い、キーンコーンカーンコーンといつものお昼休みの予鈴が聞こえてきた。
「うっし、飯だな!いただきまーす!」
カバンからブタのお弁当箱を取り出した早乙女君は
「お茶、取ってくるね」
「悪いな」
教室の後ろの棚に用意された吸水用の大型水筒の脇に置かれた神コップに夏バテ防止用の麦茶を注ぎ、自分の席でお弁当を食べる早乙女君の机に置いてあげる。
「愛妻弁当ってやつかな♪︎」
「……ぞ、ぞんなんじゃねえっで」
ゴクンと唐揚げを飲み込んだ早乙女君は二つ目の俵型のお結びを口の中に放り込み、ゆっくりと麦茶を飲む。私も日記を閉じて、軽食用のサンドイッチを入れたバスケットを机に置いてテーブルクロスを敷く。
「そんなに凝るタイプだったか?」
「ウ~ン。ただの趣味だけど、ご飯を食べるときはしっかりと食べたいから真似ているだけかな?それに食べても体質的に太らないから」
「あー、オレもそれは分かるぜ。筋肉付けてえのに食っても中々筋肉が付かねえんだよな。いや、シャーフーに習ってるせいか?」
「フフ、老師に教えを乞えると知った武道家が聞いたら凄く羨ましがるね」
「糸色、ここだけの話なんだが、マスター・シャーフーって本当に強いのか?」
「強いよ。今は戒めとして獣拳を封じているけど、私なんておでこに、かるーく肉球のスタンプを乗せるだけで気を失ったことあるもん」
「マジかよ、すげえな」
「四千年の歴史を誇る獣拳。相対する流派、ビーストアーツとアクガタの歴史上、マスター・シャーフーと対等に渡り合えるのはアクガタ創設者のマクっていう獣拳使いだけだそうだよ」
そう言うと早乙女君は「ソイツの流派は分かるのか?」と聞いてきた。けど、流石にアクガタの資料を見せて貰えるほど私は極めていないかな。