「ムース、顔色が悪いかな」
「だ、大丈夫だあ。オラは元気じゃだで」
フラフラとラーメンを運ぶムースの事を観察していると、少しだけ神仏に近しい霊気を感じた。よく妖怪ならまだしも神仏に好かれたら守れない。
ムースは神様のお婿さんになっちゃうね。
「糸色、ラーメン四つ頼む」
「切君、僕にも愛情たっぷりラーメンを頼む」
九能先輩と早乙女君、あかねさん、右京さん、小太刀さんの五人という組み合わせにビックリしながらも頷いて、ラーメンの麺を五人分煮える大鍋の縁に掛けた振りザルに入れ、スープとタレを絡めて、お湯を注ぎ、湯切りしたラーメンの麺を流し込み、メンマや味付け玉子、チャーシュー、ナルト、ネギをトッピングしていく。
ちなみに九能先輩の味付け玉子はハート型にカットして盛り付けているので分かりやすいかな。そう思いながら五人の席に近付き、話し始めるシャンプーに小首を傾げてしまう。
「ムース、やっぱり顔色悪いよ?」
「……少し、休むだ」
のっそりと厨房の脇に用意された長椅子に倒れるムースのおでこに手のひらを当てて、熱を測るも平熱。風邪じゃないなら生命力を吸われてる?
確信めいた事を考える。
兎に角、妖怪と違って神仏は善意によって相手を捕まえて持っていこうとする。お父さんもお母さん関連の出来事で似たようなことがあったって話していたかな。
「糸色殿、ムースはどうしたんじゃ?」
「え?あそこで眠って……あれ?」
長椅子に寝転んでいたムースが消えている事に気付き、慌ててお店の中を見回すとシャンプーに似た格好の女の子に連れていかれるムースが見えた。
「早乙女君!九能先輩!ムースが連れ去られているから助けて来てほしいかな!!」
そう声を張り上げると猫飯店の戸を抜けようとしているムースの手が、シャンプーの振るったトレイによって弾かれた刹那、ムースは崩れ落ちる。
ぐったりとしたムースの姿に驚いた早乙女君がビンタして起こそうとするけど。まったく起きる気配はなく、早乙女君と九能先輩は皿に強くビンタしていく。
「起きないわね」
「ムースは寝坊助ね」
「一体、何があったんだ?」
「妖怪に魅入られたか?」
「いや、この顔の腫れはもっと酷い相手だろう」
それはさっき九能先輩がしたやつだよ?と言いながら厨房に戻って残りのお客さんに料理を提供し、お婆ちゃんの気付け薬を飲まされるムースの事を見据える。
正直、かなり不安かな。
妖怪や怖い人と戦った事はあるけど。
ほとんど格落ちした相手だった。
神仏に抗えるのか、少し不安かな。