「切ちゃん、ホンマに美味しいんか?」
「うん、酸味が効いてて美味しいかな」
「……ぐぎっ、あ、アカン!酸っぱい!」
秘伝のソースを作るために研鑽を重ねる右京さんのお好み焼きを食べ、何故かお米を差し出す右京さんの提案を断るとショックを受けていた。
「お好み焼きはおかずにもなるんや!」
「どっちも炭水化物だよ?」
「美味しいやん!」
切実に私に訴える右京さんの言葉はちょっと分からなくて、隣に座っている句君を見るとプロテインを焼けていない生地にドバドバと落としている。
アレはもうダメな気がする。
「何すんねん。句君!」
「いや、炭水化物取ったらプロテインいるだろ」
「こ、これやから東京もんは!?」
「右京さん、句君は京都の人かな」
「……人を食った態度はそれか」
深々と溜め息を吐く右京さんに苦笑を浮かべていたその時、暖簾の隙間を縫って飛んできた刃物をお箸で受け止め、じっと見つめる。
「なにこれ?」
「それは錐だな」
「私?」「違う」
右京さんに手渡すと「これはたこ焼きの道具や。せやけど、なんでウチん店にたこ焼きの道具が来んねん?」と不思議そうにしながら、二つ目のソースを刷毛で塗った海鮮お好み焼きを食べる。
「唐辛子と、なにかなこれ?」
「唐辛子と山椒を粉末にして他の香辛料とブレンドしたソース試作20号やね。どうやろ?」
「美味しいかな」「辛い」
「……切ちゃん、美味しい以外に言わんやん」
「ウソは言っていないかな。私、毒物が効かない体質だから全部美味しく食べられるし。昔、デトロトキシンまみれの河豚の内臓を食べたことあるし」
にこやかに私がそう言うと「句君、止めたらなあかんで?」とか「切ちゃんが止まるわけないだろ」とか少ーしだけ失礼な言葉を言われた気がする。
それにしても、まだ帰らないね。
「ところで、あのひょっとこ男は誰だ?」
「知らん」
「私も知らないかな。ここの人じゃないだろうし、もうすぐ初詣だから他の地区から呼んだりしてきたんじゃないかな?」
私の解答に納得してくれた右京さんと句君の二人は外に立っている男の人を無視して、新しいソースの味に関して議論を始める。
なぜか味音痴のレッテルを貼られ、私はショックを受ける。いつも作るご飯を七杯もお代わりするのに、私の料理は音痴なんかじゃないと思うかな。
「……帰らないわね」
「帰らんな」
「右京に用があるんじゃねえのか?」
「ウチにぃ?」
「あり得るだろ。そら、さっさと行って話だけでも聞いてやれよ」
なんだか、面白い予感?