糸色本家の面倒な行事を終えて、ようやく風林町に帰ってこれた私はベッドに倒れ込み、あの鬱屈とした本家の雰囲気に溜め息をこぼす。
「あら、ちゃんと居るじゃない」
「……魔女先輩、不法侵入かな?」
「ウフフ、可愛い先輩のオチャメな悪戯よ。それに壁抜けは魔法の基礎の基礎みたいなものだから、そんなに怖くないわ」
そういう問題ではなく、乙女の褥に入り込むのは宜しくない行為だと思うわけだよ。句君もたまに本を探しに来るけど、ちゃんとノックするよ?
「まあ、そんなことは良いのよ。貴女を呼んだ理由は面白いことに巻き込むためよ」
「巻き込まないで欲しいかな?」
「連れないわね。友達でしょう?」
「お友達でも悪いことはしないよ?」
私は渋々とバイクのように変形する箒の後ろに乗り、魔女先輩に差し出されたヘルメットを被り、眼鏡を胸の間に仕舞って、彼女の背中に抱きつく。
「ゔっ、きも゛ちわるぃ゛」
「ヤバいわね。爆弾じゃない」
「ヴッ、なに゛が言った?」「何でもないわ」
?
ちょっと嬉しそうにしている魔女先輩がハンドルを握り込んだ瞬間、私は吹き抜ける風の速さに驚きつつ、溶けるように変わっていく視界に興奮してしまう。
そして、吐き気と気持ち悪さも増していく。
「ゔえぷっ」
すごーく速くて綺麗だ。
「切さん、回るわよ」
「え?ん゛ッ……んぶっ、ん゛ん゛ん゛っ!!?」
ぐるりと真っ直ぐ進んでいるのに螺旋状に巡り、雲の上まで突き抜けると空飛ぶ船が見えた。
「……空飛ぶ、船…?…」
「正確には私の魔法ね」
「そんなことも出来るんだ」
「ウフフ、伊達に魔女先輩と呼ばれていないわよ」
にっこりと笑った彼女は空飛ぶ船に着地し、私は甲板に降りて口許を押さえる。ものすごい揺れに吐きそうになる。これは予想外の振動……!
こ、これは、本当に女の子としての沽券に関わるほどダメな事になるかもしれない。魔女先輩の魔法の上に出しちゃうのは絶対にダメッ……!?
「強い女の子が弱ってるとムラッとするわね。ねえ、女の子とか興味ない?」
「ん゛ッ、ん゛ん゛ん゛ッ」
「あ、冗談言ってる暇ないわね。さっさと目的地に行きましょうか」
ブンブンと頭を振って口許を押さえていると、魔女先輩もすぐに理解してくれ。舵を回して飛び立つ。あ゛っ、我慢できないかも知れない。
けど、魔女先輩の大事な魔法を汚さない。
私の尊厳と魔女先輩の魔法、どっちも守りきって目的地まで届いてみせる。でも、やっぱり、無理かも知れないかも知れないかもかな。