「そういえば天道先輩は諦めたのかな?」
「ムッ。天道なひきがどうかしたのか」
「句君に一年で落としなさいって言っていたけど。いつもデートしたりしているし、もう二人ってお付き合いか婚約しているのかなって」
「うむ、いい加減に諦めろと言いたい気持ちは分かるぞ。僕も何度か付き合っているのかと気になって聞いてしまったからな」
少し長引いているお友達の恋愛模様を話し合い、九能先輩に隠れてこっそりと買った安産祈願のお守りを見たマスターはものすごーく困惑している。
まだ、だけど。
一応、持っておこうかな?と思っているだけで何も悪いことはしていないよ?と私は思う。九能先輩が卒業してから、私は三年生になるからね。
ちょっとだけ寂しい。
「九能先輩は進学するの?」
「九能家の嫡子たる者、文武両道を極めるつもりだ。ダディ曰く『孫は早めに見たいデース』とのことだが、切君にもやりたいことはあるだろう?」
「やりたいこと……スクラッチ社のトレーナーかな?バット・リー様が私なら十分に教えることは出来るって就職先を勧めてくれているけど」
お父さんの後を継いで和裁士にもなりたい。
私は欲張りだから何でもほしい。
「切君がトレーナー……良からぬ男が現れそうでイヤな気持ちになるな。大体若い妻がジムに通うとき、悪漢の登場は定型化された出来事だ」
「そう、なの?」
「うむ、そうなのだ」
そうなんだ。
不思議な定型化した出来事もあるんだね。
でも、悪漢より私の方が強いかな。まあ、流石に銃を出されたら私も困るけど、死なないかな。見えるし、止めることは出来る。
「今、すごいこと考えてなかったか?」
「え?」
いきなり、どうしたのかな。
九能先輩を見つめると「いや、なんでもない。おそらく僕の勘違いだった」と続けるように言われ、私は更に困惑してしまった。
いったい、何を言っているんだろう?
「切君気にしなくても大丈夫だ」
「? わかったかな」
よく分からないけど。九能先輩がそう言うなら本当にどうでもいいことなのかも知れないかな。だけど、やっぱり教えてもらえるほうが嬉しい。
「九能先輩、大好きだよ」
「僕も大好きだよ、切君」
そう言うと九能先輩はあっさりと返してくれた。
むう、九能先輩をからかうのは難しいかな。いつもいつも私より威力の強い仕返しやカウンターを受けることになるからね。
そういうことは次に活かして、仕返ししてあげるつもりなんだけど。あからさまに九能先輩に有利な勝負に持ち込まれている気がするかな。