珍しくというより初めての居眠りをする切ちゃんに注意しようと近付くひなちゃん先生の襟を引っ掴んで手元に引き摺り寄せる。
くうくうと眠っている筈の切ちゃんは目の前に向かって鋭く尖った爪を突き立て、あと数秒引っ張り寄せるのが遅れていたら、ひなちゃんの喉に突き刺さっていた。
「ひ、ひえぇ…」
「な、なんということじゃ!まさか切ちゃんまで伝説の春眠香を嗅いでしまったというのか!?」
いきなり現れた八宝斎の爺さんの言葉にオレ達は爺さんを見遣り、大介が本を奪って「春眠香」の説明文を読み始め、オレは頬が引き釣る。
普段の強さをセーブした切ちゃんを知っている分、かなりヤバいことになるんじゃないかと冷や汗を流し、他のクラスメート達も距離を置き、警戒する。
「そういや、あかねも吸ってたな」
「乱馬、天道はお前に任せた」
「まあ、要するに起こせば良いんだろう?」
「そうなる。が、天道は切ちゃんと互角にやり合える女だ。下手したら潜在能力はピカイチかも知れん」
「……ジジイ、起こしてこい!」
「乱馬、良いヤツじゃあ~!!」
ガバッと乱馬に唆され、飛び出した爺さんは切ちゃんと天道の無動のままに繰り出された拳打と抜き手を受け、ズタボロに変わり果てていく。
二人の動きは一体化し、空中で無惨に惨たらしくボコられた爺さんは白目を剥き、気絶している。あんな人体の急所を遠慮無く突く攻撃はオレも受けたくない。
「…んむっ、たっちぃ…」「…乱馬の……ばぁか…」
こくり、こくり、と二人の頭は揺れる。
爺さんを殴るときに
「乱馬、お前愛されてるな」
「そ、そんなんじゃねえーって!」
満更でも無さげに乱馬は顔を赤らめ、眠ったまま立っている二人の方に視線を向け、ゆっくりと摺り足で天道の方へと近付き、肩に触れようとしたその時、切ちゃんの二本指の抜き手が空を切り裂く。
「あんにゃろう、顎の関節狙ってきたぞ!」
「糸色流は元々アレだ。人体を如何に効率良く破壊し、無力化するか。切ちゃんの気質が優しすぎるだけで、いつも本気じゃなかっただけのことだ」
「要は三味線引いてたわけか」
「全く騒々しいと思えば何をしている。寄って集って切君とあかね君を取り囲み、己らはいったい何をやっているのだ!」
「帯刀先輩、切ちゃんが爺さんのお香のせいで起きないんだ。しかも眠ったままだから手加減無し、止められるのは帯刀先輩だけだ」
「おめえ、やっぱり今日は饒舌だな」
「オレだって不味いときは喋る。それだけだ」