「悪苦世流!」
高速スピンと同時に飛び上がって蹴りを繰り出すあかねさんの動きの華やかさに歓声を上げる観客席に頷きつつ、走れないならばと全力で回転し、リンクを削って礫を放つ早乙女君の機転も良いものだ。
「アクセル?」
「スピンとジャンプの高等技術だ。あかね君の身体能力であれば容易く行える技だが、蹴りと剣法の複合にも見える。謂わば足による剣術だな」
「正解、流石は九能先輩かな。対氷上戦闘用に編み出された烈嚆銀盤拳の真髄は肉体を支える二脚を用いての足刀攻撃にある。当然腕力の五倍はある脚力で使えば一撃必殺にも成り得るわね」
「じゃあ、あかねも気付いているわね。あの子、そういうセンスはずば抜けているし」
天道先輩の言う通り、あかねさんの格闘センスは早乙女君より上に思える。ただ、無意識に手加減する癖があるのか。はたまた天道早雲が何かしているのか。
日本の武術界には気功法を完全に封じ込める奥義も幾つか存在するし、天道早雲と早乙女玄馬の二人は百年の歴史を持つ無差別格闘流を掲げる格闘家だ。
「だだだだだだだだーーっ!!!」
「早乙女乱馬め、僕の突きを蹴りで真似たな」
「そうなの?」
「天道先輩、おにぎり食べます?」
「頂くわ。はい、九能ちゃん」
「うむ。爪先を切っ先に見立てた上、相手の防御を直接崩す技は僕の得意技のひとつだ」
私の握ったおにぎりを頬張りながら解説する九能先輩に天道先輩は感心しつつ、私の差し出すお茶を飲む。しかし、九能先輩の突き技ならすり抜けると思うけど。
「あかね、落ちるなよ!」
「分かった!」
そう思っていたその時、早乙女君があかねさんを背中に乗せたまま身体を捻って着地し、四足の動物のように低く構える。
『いかん!アレは魔犬慟哭破の構え!』
「何だ、このパンダは?」
「乱馬君のお父さんよ。おじさま、おにぎりあげる」
『いただこう』
いつの間にかやって来ていた早乙女玄馬の立て札に書かれた『魔犬慟哭破』の文字を見遣り、どの様な技なのかと期待を込めてスケートリンクを見据える。
さっきまで滑れていなかった氷上を掴み、動物のように走ることで加速し、背中に乗っているあかねさんも攻撃に意識を集中している。
『来るぞ!!』
その立て札と同時に早乙女君は方向転換し、三千院帝に向かって駆け出す。真っ直ぐ直線的な動きは読みやすいけど、あの動き────。
「無差別格闘早乙女流奥義『魔犬慟哭破』っ!!」
そう叫んだ瞬間、早乙女君は犬が食らいつくように飛びかかり、両手で三千院帝の後ろ腰を掴み、十指を力任せに突き立て、絶叫を上げそうになる彼の顔をあかねさんの正拳が撃ち抜いた。
「腰関節を狙った極め技。いや、神経の集まる腰を狙う打撃技の一種か?だが、魔犬慟哭破……その名の通りに人を喰らうか!」
「……切さん、九能ちゃんどうしたの?」
ライバル意識の芽生えかな?