海水浴を終えて数週間ほど経過し、あかねさん経由で早乙女君達は近所の長屋に引っ越す事になったそう。お母さんとようやく話せて、良かったかな。
「早乙女君、相談って何かな?」
「いや、そのな。コイツをあかねに渡してえんだ」
そう言って恥ずかしそうに差し出された小箱を開けると、指輪が入っていた。あかねさんに指輪を渡したい。ふぅん、へえ、ふぅん?
「邪魔されたくないなら素直に話しかけて、公園か自分の家で渡すのが一番だと思うよ。早乙女君は本気なんでしょう?」
彼の目を見つめて、そう問いかけると目を逸らさず、しっかりと頷いてくれた早乙女君に微笑みを浮かべ、親友の幸せに嬉しくなる。
けど、アレって指輪なのかな?
そんなことを考えながら歩いていると、右京さんとシャンプー、なぜか小太刀さんの三人が早乙女君と別れた後に茂みや木の上から現れた。
「あの婚約指輪はウチのや」
「私が貰うね。お前ら帰るよろし」
「いいえ、私のモノですわ」
ズンズンと走り出した三人に気付いた早乙女君も逃げるためにダッシュし、必死に走って逃げようと頑張っているのが見えた。
「……五寸釘君は追いかけないの?」
「僕は良いんです、あかねさんが幸せなら」
茂みから出てきた五寸釘君はそう言いながらも金槌で早乙女君の写真を貼りつけた藁人形に釘を打ち付けて、変な笑い声を出している。
うん、やっぱり早乙女君は人気者かな。
「句君もそうおもうでしょう?」
「まあ、乱馬だからな」
句君は苦笑いを浮かべながら「しかし、アイツもとうとう婚約指輪を渡す時期か」と染々と呟いたかと思ったら、句君も指輪を取り出した。
「オレもなびきに言ってくる」
「うん。応援しているかな」
みんな、それぞれの大好きな人に告白するのは勇気のいることとだし。結婚したいと思える人と出会えるのは、とても幸せなことだと思う。
「(ゆっくりと時間が進んでいくなあ……)」
のんびりと五寸釘君の釘を打つ音を聞きつつ、木陰のベンチに座って本を読み始める。微かに、人と獣の混ざった臭いを感じ、空を見上げる。
ほんの一瞬だけど。
なにかが空の上を飛んでいた。
獣拳の使い手とは違うし、おそらく何かしらの力を持っている人間が私達の事を見下ろしている。糸色家だから見ているわけじゃないのは理解したかな。
でも、殺気を感じた。
「(強さは私か少し私より上かな。飛行するなら更に強さは増すけど、鳥が蛇に勝てるかな?)」
ゆっくりと空を睨み付けると気配は遠ざかった。