「恋愛映画って泣けるんだね」
「うむ、善き哉」
まさか糸色景様の事を題材とした映画とは想像していなかったけど。『千里の果てに君を見る』というタイトルも中々に味わい深くて面白かった。
此方はドラマと違って年齢は忠実だった。まあ、斬馬刀を振るっていた頃の相楽左之助様と糸色景様の出会いを描いた序章なのは非常に残念かな。
もっと見たかったのにな。
そう少しばかり残念に思いながら九能先輩にホットコーヒーを差し出して、一緒に広場のベンチに座って映画の感想を語り合う、
「しかし、糸色家は本当に多才的だ。君が糸色景の子孫だと知られたら大騒ぎだったな」
「たまに考古学の研究者が来たりしてたから大騒ぎには慣れているかな。ところで、九能先輩も気付いていると思うけど」
「ああ、五人か六人か潜んでいる」
おそらく糸色家の情報を欲しがっている人物だと仮定し、私はカバンに仕舞っていた如意棍槍を取り出そうとしたその時、九能先輩に手を掴まれる。
「一旦、人目を避けるぞ」
「え?あ、ちょっと!?」
太ももを掬うように掴まれてお姫様抱っこのまま走り出す九能先輩にビックリしながら、僅かに彼の手が胸に当たっている事に気づいたものの、此方を追い掛ける集団に視線を向け、仕方ないかな?と軽く溜め息を吐く。
「切君、武器はあるか?」
「生憎、槍だけだよ」
「致し方無しだな」
そう言うと九能先輩は将棋を打つお爺さんの杖を手に取り、私の事を片腕で抱き締めつつ、後ろ向きに振り返ったと同時に杖を真っ直ぐ振り抜いた。
「九能流秘奥義 千手観音突きッ!!」
高速の連続片手突き。
その速度は私の槍捌きに匹敵し得る。
しかも、それを片手でこなしているという事実にまた驚かされながら、杖が壊れたり曲がること無く追っ手を倒した九能先輩の腕前に私は目を見開く。
「ムッ。女だと?」
「中華服、女傑族なら危険ですよ」
「何が危険なのだ?」
「相手を拐って婿にするそうです」
「来るものは拒まないが、今の僕には切君という恋人もいる。おいそれと他人に現を抜かすなど日本男児たる者あってはならんぞ!!」
……その割には一度も「好き」や「愛している」という言葉を囁いたりしない。やっぱり彼の中には、あかねさんや早乙女君、小鎌さんもいるのだろう。
いや、もっと奥底に幼なじみがいる。
その人の事を九能先輩は今も探しているし、大好きなのは私でも簡単に理解できる。だけど、なんで私まで九能先輩の事を考えて、こんなにずっとモヤモヤしているのだろうか?