緩やかに立ち上がったあかねさんは右手を手刀のまま下段に下ろし、左手を握り締めて腰溜めに構える。狙いは、正拳突き。あるいは肘打ちのどちらかだ。
ひょっとしたら蹴りかも知れないけど。
「来ないの?」
「行くよ」
ズキズキと痛む胸を軽く撫でて、竜頭拳(人差し指と中指の第二関節を立てた拳)ではなく、左手を顎の近くに置き、右手を縦に立てて中段に添えるように構える。
ボクシングで言えば
「ちぇりゃあっ!!」
「せやあっ!」
真っ直ぐ最短を打つ右縦拳を手刀受けで弾かれ、がら空きの脇腹に左鉤突きを受ける寸前に膝蹴りを放ち、お互いに身体をのけ反らせたものの。私は拳圧で僅かに裂かれたお腹を押さえ、あかねさんは膝の掠った顎先を手の甲で拭う。
強いとは思っていたけど。
流石はあかねさん、想像以上の強さだ!
そう笑みを浮かべる私の眼前に突き進んできた彼女は踏み込みと同時に右拳を突き上げ、私の事をたった一発で吹き飛ばした。
普通の突き上げじゃない。
全身の「捻り」を加えた打撃だ。
「切君!今のは昇魔空破拳だ!ワシもその一撃で天道君に吹き飛ばされたことがある!!」
「早乙女君のお父さんを?」
ハンカチで口許の血を拭き取りながら早乙女玄馬の言葉に耳を傾ける。成る程、道理で視界が歪むわけね。一撃で意識を刈り取られそうになるなんて、糸色妙様に稽古を着けて貰った時以来かな。
「(最初の蹴りを受けたのも合わせて三回。私は不発の投げと、顎を蹴ったのが一回。やっぱり攻撃の数が割に合っていないわね)」
「どうしたの。もう降参?」
「ううん。違うよ、技を変えるだけ」
私の学んだ糸色流は千種類の流派を一つに嵌合したものだ。純粋な身体能力に物を言わせる戦い方は不向き。特に暴力と科学の完全融合した武の理想像みたいな糸色妙様のように戦えるわけがない。
「仕方ない。
ゾワゾワと背中に感じる異物感を押し出す。後ろのほうで「動物になった?」と聴こえるけど。動物になっているわけでもなければ呪われたわけでもない。
「早乙女君、アレはお師匠様の使った…!」
「う、うむっ、俄には信じられん!」
「親父、知ってるのかよ。あれ!?」
「古今東西あらゆる武術には動物の動きを模倣し、その動作の機微を技に取り入れる流派は存在する。しかし、それら全ての流派など取りに足らぬと思える。いや、足元にも及ばぬ流儀の名こそが、───
解説、ありがとう。
けど、教えても意味ないんじゃないかな?