あの後、シャンプーは早乙女君の特異体質の事を知って中国に帰ってしまったそうだけど。私の目下の悩みは句君の無神経なところだ。
普段は良い子で頼り甲斐もあるのに、たまに抜けているから私の胸を掴んで揉んだりしたわけだ。本人も小鎌さんに徹底的に殴られて反省している。
だから、まあ、許している。
「よっ!」
「おお、上手いものね」
「あかねは運動神経抜群だからねぇ。糸色さんも格闘技習っているんでしょ?」
「ん。まあ、習ってる……でいいのかな?」
幾つか免許皆伝を貰っているし、習っているということで良いのかも知れない。そうひとりで納得しながらシャッターを切る音が聴こえてきた。
「(……体育館の外から覗き見してるな)」
まあ、そういうことする人もいるわよね。
「次、糸色切さん」
「はい。跳べば良いんだよね?」
先生の呼び掛けに答えて、跳び箱の前に移動して体育の先生に話しかけると「あまり派手な技は控えてくれ」と切実に頼まれてしまった。
まるで問題児のように扱われているのかは不服だけど。そんなことを考えながら跳び箱に向かって駆け出し、飛ぶ瞬間に手を捻ってしまい、跳び箱がだるま落としのように半壊し、怪我をする前にマットに着地する。
「……先生。ごめんね」
「多分、設置したときにズレてたのね」
いや、普通に関節外しの技術だよ。
外れた跳び箱を戻しているとあかねさんに「今のってハカイケン?」と聴かれ、そっちとは違うほうと伝えると「まだ手札があるのね」と言われた。
まあ、それなりにね。
「早乙女君、窓の近くに居るよ」
「やだ、覗き?」
私の言葉に怪しんだあかねさんは窓に近付き、何か話したかと思った次の瞬間、バチィンッ!!と鈍い音が聴こえてきた。
「早乙女君、また何かしたのかしら?」
「あり得るわね。あかねも大変よね、ツンツンしっぱなしの許嫁だもん」
「ねー」
私を挟んで話すクラスメートに混ざっている本家の忍びに何とも言えない気持ちになる。いつ、どこで、どうやって、入れ替わったのかすごく気になる。
まあ、それを聴けるのは当主だけかな。
「(それに、あのシャッターを切る音も気になる。何かしら私か糸色家を調べようとしている人か。あるいは、あかねさんを狙ったパパラッチ的なものかな)」
まあ、そうなると余計に早乙女君は邪魔な存在として扱われるだろうね。学校のアイドルがいきなりやって来た転校生と許嫁だったなんて納得できる人は早々いないだろうし。
それは、九能先輩もかもしれないけどね。