「ぎいぃいやああぁぁぁぁ!!!」
風林館高校のお昼休み。
穏やかな初夏の空を切り裂く早乙女君の悲鳴に慌ただしく、みんなで中庭に集まると花壇の近くに仰向けに倒れて失神している早乙女君を見つけた。
「芋虫が怖かったのかしら?」
「さあ、分からないわ」
天道先輩の呟きに小鎌さんが答える傍らで、あかねさんは気を失っている早乙女君に何度も呼び掛けている。みんな、早乙女君の事を心配すると同時に、あの早乙女君が悲鳴を上げるほど怖がっているものが知りたくて、興味を持っているようだ。
まあ、その気持ちはすごく分かるけど。
人の怖いものを知るのは良くない。
「……ところで。切さんは何で九能ちゃんに抱きついているの?」
「私、虫が苦手なので」
「あらそう」
「近づけたら顎を蹴り砕く」
「ほほほ、冗談に決まってるじゃない」
そう言うと天道先輩はクスクスと笑って、私の反応を楽しんでいる。九能先輩は石みたいに固まって動かなくなっているけど。
多分、問題ないと思う。
ふと早乙女君の服に残っていた足跡が見える。人じゃなくて、動物の足跡に見える。あれは四足歩行の動物、それも人の近くにいる動物かな。
「(……まさか、ねこの足跡?)」
あの早乙女君が猫を怖がっているかも知れないという考えに至ったものの。そう簡単に相談できる内容ではないし、私以外は気付いていない。
私も苦手なモノはあるから、誰かの嫌いなものを高らかに話したりするつもりはない。五寸釘君もまだ気付いていないみたいだから大丈夫だと思う。
ぞろぞろとみんなも帰り始める。
「糸色さん、何か気づいたのかい?」
「ひぃんっ!芋虫!?」
ぎゅうっと私は九能先輩に登って五寸釘君の持つ芋虫に警戒しながら警戒していると九能先輩が徐に動き始めたかと思えば校長先生の銅像に向かって、思いっきり頭突きを繰り返していく。
「馬鹿者!馬鹿者!馬鹿者!馬鹿者!悲鳴を上げる恋仲に不埒な事を想うなど武士道にあるまじき行為だ!!それでも九能家の嫡男か!!」
ガンガンと頭突きを繰り返す九能先輩の動脈を軽く締めて意識を刈り取り、中庭のベンチに彼を抱き上げて移動し、みんなが見ているものの、膝枕をしてあげる。
「史上最低の変態に糸色みたいに可愛い恋人が出来るのに、どうして俺達にはいないんだ!」
「くっ。オレも小柄な巨乳の彼女がほしい!」
「男ってすごい欲まみれね」
まあ、そういうものだと割り切ろう。
九能先輩も男の子だから、そういうことに興味を持っているのは分かっているつもりだけど。彼は幼なじみに操を立てているから……。