凄まじい拳圧によって胴着が刻まれ、僅かに肌が見える九能先輩から視線を逸らし、未だに止まる気配のない早乙女君にあかねさんは呼び掛ける。
「ヌゥ…!不覚を取った」
「やっぱり動物っぽい動きが相手だと風林館高校の最強にして史上最低の変態でもダメなのか!」
「クソ、九能先輩から強さを取ったら変態しか残らないのに!」
「貴様ら聞こえとるぞ」
不満げに文句を告げる九能先輩の近くに立つ男子生徒の言い分には、それなりに不満はある。史上最低の変態と言われても私の知っている九能先輩は普通に優しくて紳士的な人だ。
みんなが言う史上最低の変態……なんていう事はしなかったと思う。前に胸に顔を埋められたり、お尻に突撃されたことはあるけど。
まあ、それは不運の偶然かな。
「糸色さん、来ているよ」
「五寸釘君も動いてくれるかな!」
セーラー服の背中に手を差し込み、槍を引き抜いて早乙女君を突く。しかし、強烈な爪撃によって穂先は砕かれ、石突きで顔を殴るもヌルリと躱される。
「にゃあぁぁ~~~ご」
「もう、蛇の威嚇は効かないわけね」
蛇蝎の如く攻めるにしても見物に来ている生徒や教師が多すぎる。あまり派手な技を使ったら良からぬ事を考えるかもしれない。
いや、もう迷ってる暇はないか。
使いたくない技を使おうとした瞬間、私の肩に手を置き、悠然と歩くお婆ちゃん姿の早乙女玄馬に私の思考は一時的に停止してしまった。
「な、なんでお婆ちゃんの
「猫拳を治める事が出来たのは、かつて近所に住んでいたお婆ちゃんのみ!しかし、今から呼んでいては乱馬によって都市部は爪磨ぎ場と化す!!」
そんな世界の終わりみたいに言わなくても良いんじゃないかな?と思いながらも猫じゃらしを構えて飛び出した早乙女玄馬にビビる早乙女君。
まあ、当然の反応だと私は思う。
「あれは恐ろしい」
「ああ、あの厳つい顔だ。怖いだろうぜ」
「早乙女乱馬の父親か。中々に腕が立つな」
「多分、私より強いですよ」
九能先輩の呟きに私も言葉を付け加える。
そして、これは本心だ。早乙女玄馬と天道早雲のどちらか一人と一対一で戦ったとしても私は死んでようやく引き分けに持ち込める。
それほどまでに二人は強い。
本当に強いからこそ普段はおちゃらけた雰囲気で穏やかに過ごしている。強いからこそ威圧せず、優しく相手と話し合えるのだろう。
二人とも強すぎるから不真面目に見えるだけ。
早乙女君もあかねさんもそれを理解しているのかは分からないけど。本当にこの学校は面白いぐらい強い人が集まっている。