「ぶにゃあぁぁぁっ!!」
ものすごい拒絶反応を示す早乙女君の事を見守りつつ、早乙女玄馬の猫じゃらしは虚空を切り、爪磨ぎで捲れた木屑や石、土が一気に彼に殺到する。
「ぬうっ!?」
「おじさん、退いて!」
弓道部の弓を借りたあかねさんが変な匂いを放つ風呂敷を矢に番えて、ギリギリと弦を絞る音が聴こえる。狙っているのは早乙女君の上だ。
それならと袖に隠していた槍を伸ばして早乙女君の行く手を阻んだ瞬間、軽やかな快音と共に放たれた矢は早乙女君を外れ、風呂敷が弾ける。
「マタタビ?」
「えぇ、マタタビですね」
いつの間にか私の隣に移動していた弓道部の胸当てを身に付けた女の人が私の呟きに答える。初めて見る人。多分、2年生か3年生の人だと思う。
「私の事は壬生先生から聞いてる?」
「壬生先生?」
「あら、まだ聞いてないのね」
クスクスと笑う彼女の態度に違和感と不信感を抱きつつ、緩やかに木の上でふらつき、今にも落ちてきそうな早乙女君は飛び上がり、あかねさんに抱きつき、膝の上に座ってゴロゴロと喉を鳴らす。
ようやく終わったと安堵し、隣を見れば彼女は居なくなっていてあかねさんの持っていた弓も完全に消えてしまっている。あの人の持ち物だったのかな?
しかし、本当に何者なのかな?
そう思いながら九能先輩を見ると忌々しそうに校舎の方を睨み付けていた。彼は、さっきの女の人を知っているのだろうか。
「五寸釘、塩を撒けぇい!」
「なんでですか?」
「あの女が来たからだ!僕は如何なる女性にも等しく優しく接する事を信条としているが、あの女だけはダメだ!アレは他人の不幸を楽しんでいる!」
まるで信じないと言わんばかりに告げる九能先輩に困惑しながらも近づこうとした瞬間、五寸釘君が「…ああ、2年A組の魔女ってあの人か」と呟いた。
そんな人もいるのかと感心していたその時、どよめきと黄色い歓声が響き、後ろに振り返ると早乙女君が大胆にあかねさんとキスをしていた。
すごく幸せそうにキスをしますね。
「おのれ、早乙女乱馬!僕より先に進む気か!?」
くわっと魔女云々を放置して私を見る九能先輩にビクリと身体を強張らせる。まさか早乙女君に対抗して、キスするつもりなの?と不安になる。
「…………」
「…………」
「……す、すまない。またの機会にしよう」
「は、はあ…」
どこか後ろめたさを纏う九能先輩。
やっぱり、まだ「しほ」という幼なじみのことを気にしているんだろう。私じゃないのは分かっているし、違うはずだよね?