「話したいことは幾つかあるが、今は婿殿の話じゃ。すでにシャンプーに負けておるお主と、勝っておる婿殿では実力差は明白」
「オレは承諾してねえ…!」
「そうだぞ。乱馬君はあかねの許嫁だ!」
「お父さん!?」
いつの間にか校庭に入り込んでいた天道早雲の宣言にあかねさんは驚き、早乙女君も何も言わないけど。腕に抱き付くシャンプーを優しく引き剥がし、あかねさんの傍に寄り添っている。
やっぱり、二人とも仲良しなのかな。
そう思いながら感心しているとムースと呼ばれた男は怒りによって闘志を高める。確かに好きな人にはとっくに恋人とも言える許嫁がいたら怒るわよね。
「貴様は女の敵じゃあっ!!」
「オレの話を聞けぇーっ!!」
早乙女君は素早い蹴りを繰り出すムースの頭上へと避ける。
「グゥっ!?」
「乱馬が殺られた!?」
「斬れたぞっ、刃物か!」
「見えなかったぞ、なんだあれ!」
が、真上に逃げた筈の早乙女君の身体に三本線の傷ができ、チャイナ服は切り裂かれ、胸元から鳥の爪に引っ掻かれたような血を垂らす。
「気を付けるよろし、乱馬。ムースは暗器術の達人、下手に間合いに踏み込めば数々の武器が飛び出すとんでもビックリ箱あるよ」
「シャンプー、どうしてオラの技をそんな女の敵に教えるだ!」
「わたし、ムース嫌いね」
「ッッ……!!」
シャンプーの素直な一言にショックを受けるムースは涙を流す目元を隠すために瓶底眼鏡を掛け直し、ジロリと早乙女君の事を睨み付けていた。
ブツブツと怒りを呟くムース。
「許さんぞ、貴様ァ…!」
緩やかに袖口の大きなチャイナ服を着たムースは両の腕を持ち上げ、弧を描くように腕を振り抜く。間合いの外と安心する早乙女君の頬を、つぅーっと血が伝う。
「切ちゃん、天道、オレの後ろに居ろ。アイツ、ただの手品師じゃないかも知れない」
「それってどういうこと?!」
「句君、まさかあの技を知ってるの?」
「いや、技は知らない。だが、アイツがやってるのはオレの鎖分銅と同じだ。真っ直ぐ鋭いものを打ち出して、瞬時に引き戻している」
「ホウ。お主、目が良いな。左様、ムースはワシの知人に技を仕込まれた拳士。如何に婿殿と言えど見えぬ攻撃は防げぬ」
お婆ちゃんはそう自慢げに語り、句君は口許を片手で塞ぐように腕を組み、ジッと逃げ惑う早乙女君と彼を追い立て、攻撃を放つムースを見据える。
攻略の糸口を見つけることが出来ればいいけど。
「…ねえ、この音ってなに?」
「音?何も聞こえねえけど」
「いや、聞こえるぞ。ヒュンヒュンって」
ひゅん?……変な音が聞こえる。
「痛ッ…?」
チクリと光るものを見てしまい、目を背ける。光るもの。透明な何かを使っているか、見えにくい道具を繰り出しているのなら説明がつく。