「乱馬、地面を殴れ!」
突如、そう叫ぶ句君の言葉に一切の躊躇もなく地面を殴り、土石を弾き上げる早乙女君。けど、そのおかげで彼の周りを飛んでいたものが見える。
その幾つかが石に当たって砕け、早乙女君は肩に刺さっていたブーメランを引き抜き、ムースの事を静かに睨み付けている。
「ブーメラン?」
「ガラスみたいに透明だ」
「乱馬、がんばるね!」
「乱馬っ、負けたら許さないわよ!」
ざわめきを起こす同級生に混ざって、早乙女君を応援するシャンプーにあかねさんはムッとした顔を作り、続けるように応援を送った。
二人の声援を一身に受ける早乙女君にムースは怒った顔を向け、左の袖の中に右手を差し込み、鉤手甲を装着して構えた。
「鷹爪拳…!ムースめ、本気になりおったか」
「鷹爪拳?」
「うむ、ムースの体得した拳法のひとつじゃ。まあ、シャンプーには通じず、何度も返り討ちにあっておるがのう」
そう言いながらもお婆ちゃんの視線は紙一重の間合いで鉤爪を避け、手首を掴んで爪による攻撃を受け止める早乙女君に向ける。
素早く繰り出される拳打の数々を往なし、弾き、直撃を回避する早乙女君。このままだといずれ捕まる。そうなれば串刺しにされるかもしれない。
「句君、頼めるかな」
「……喧嘩に割り込むのか?」
「いや、かな?」
「大得意だ」
ニヤリと笑った句君はムースの腕を蹴りあげ、傷だらけの早乙女君を受け止める。うん、何だか物語の主人公みたいに飛び出したね。
「ムースの爪を蹴り折るとはやるね。
「本条句君、私の従兄弟だよ。私と互角かちょっとだけ上かな。句君は女の子と本気で戦うつもりはないから分からないけどね」
「従兄弟だったの?」
「言ってなかったっけ?」
あかねさんの呟きに転校初日の事を思い出す。とくに、そんなことは言っていないし、普通に同じタイミングで転校してきただけのように話している。
いや、実際にそうなのかも知れないけど。
「貴様も敵じゃあ!」
「オレの好敵手は乱馬だけだ」
「句…!」
「……なんか華が見えるわね」
「一番の敵はアイツね」
「句君、そこそこで良いわよ!」
不穏な気配を放つあかねさんとシャンプーを危惧し、私はそうムースの放った鎖に鎖分銅を絡め、力比べを始めている句君に呼び掛ける。
流石に相手が多すぎる。
「オラのシャンプーは渡さないだー!」
「私は私のものね」
「男の顕示欲かな?」
「切さん、当たりが強いよ」
でも、そういう人ってまだいるからさ。