早乙女君とムースの決闘の話を聞き、風林館高校は自主的に公休し、教師も生徒も一緒に設置されたリングの周りを囲い、屋台で食事を買っている。
小鎌さんは何故か玉座に腰掛けている。二年生の中で何かあったのかな?と思いながら胴着姿の九能先輩は早乙女君の到着を静かに待っている。
武人としての佇まいは完璧なのに、私の書いて差し出した交換日記を人の多いところで読むのは止めて欲しい。普通に恥ずかしい。
「切ちゃん、焼きそば買ってきたぞ」
「ありがとう。……フォークは?」
「焼きそばは箸だ」
「そうなんだ」
焼きそばも食べるのは初めてだな。
お父さんの趣味で食事は和食メインだったから、こうして食事のレパートリーが増えるのは嬉しい。いつかお父さんと一緒に食べたいかな。
「待たせたな。ムース!」
「来たか、早乙女乱馬!」
リングの上に着地した早乙女君は着膨れしたようなチャイナ服を身に付けて、まるで男の子のように振る舞っているけれど。背格好は女の子のときのままだ。
まだ、男に戻れていない。
「ムッ…!?」
ボフン…!ボフン!と白煙を上げて、ハトやトランプ、ウサギを放つ早乙女君にムースは警戒し、後ろに退いて彼の行動を観察する。
が、今の攻撃は攻撃じゃない。
「手品?」
「あいやー、ムース相手によくやるね」
「シャンプー、肉まんと餡まんくれ」
「まいどね♪︎」
一切の躊躇もなく肉まんと餡まんを購入して食べ始める句君に「お友達は心配じゃないの?」と問えば「乱馬は負けない」と言い返された。
正直、かなりの使い手だと私も理解している。
「糸色殿、お主は助力せんのか?」
「そんなことしたら怒られるよ。男の子はすごく不器用だから手助けじゃなくて見守っているぐらいが、ちょうど良いんだよ」
そう言いながらも私は飛んできた短剣やクナイ、鉤縄を槍で防ぐ。私や句君、あかねさんは大丈夫でも他のみんなは怪我するから仕方ない。
「槍!?」
「スカートからだ!」
「くっ。前に座っていれば!」
バカみたいに話す声を聞きつつ、ソッとスカートの裾を押さえて覗かれないように警戒する。句君は食べることに集中しているからダメだし。
「秘技鶏卵拳!!」
「すごい卵を産んでる!」
「玉子料理に困らないかな」
「気にするところ、そこなのか?」
違うの?と句君を見上げる。
卵は爆弾だったらしく早乙女君は焦ったようにリングの上を走り回って逃げている。やっぱりパワーで劣っている分、手数と知略で攻めるつもりのようだ。