「女体変身」と名付けて、女の子の姿は手品と主張する早乙女君の術中に嵌まったムースとリングを囲うクラスメート達のざわめきに苦笑を浮かべる。
素早く拳打を放つ早乙女君のパンチを手のひらで受け止め、ムースは鉤爪を使って早乙女君の身体を切り裂く。辛うじて回避するものの、手足の長さは男の子のときとは違う。
早乙女君は苦戦し、攻め手も欠けている。
「乱馬…」
「やれやれ。婿殿と期待していたが、ムースごときに負けるようでは意味はないな」
不安そうに彼の名前を呼ぶあかねさんと、見込み違いだと切り捨てるお婆ちゃん。シャンプーは不満そうに早乙女君とムースの戦いを見つめている。
「決闘すると聞いていたが、乱馬のヤツは何をしている。まさかワシの教えを忘れたのか?」
ヤカンを片手に現れた早乙女玄馬の呟きに私達は視線をそちらに向ける。
「メガホンを少し拝借」
「あ、ど、どうぞ」
「スウゥーーーーッ、こんのバカ息子めがぁ!何をモタモタと戦っとるかァ!暗器なぞ袖口を潰し、技の手数を崩せば良いのだ!!」
「おやじ!?」
「ムッ。暗器なぞじゃと?」
二人は瞬時に早乙女玄馬を見遣る。
「乱馬、無差別格闘早乙女流の奥義を使用せぇい!今回だけ好きに使って良いものとする!」
「ありがてえ…!」
まるで早乙女流の技や型を封じて戦っていたように叫ぶ早乙女玄馬の呟きに驚くあかねさんに「多分、ただのハッタリだよ」と伝える。
本当に子供のピンチに駆け付ける。
そう思いながら腰を沈め、クラウチングスタートよりも低く構えた早乙女君はムースに向かって突進し、槍を取り出して迎撃しようとしたムースの槍はリングを貫く。
───が、早乙女君は其処にはいない。
「こっちだ!」「こっちかもよ!」「残念!正解はオレだぜ!」「オレが本物だぞ!」と無数の早乙女君がムースの周りに現れ、あかねさんもクラスメートも教師達も目を見開き、ビックリしている。
「分け身の術。それも相当の技だね」
「おまけに流水の動きだ」
「無差別格闘早乙女流の基礎にして奥義の一つ、その名を『敵前大逆走』と言う。圧倒的な速さによって幻惑を見せ、隙を狙う奇襲の拳」
「奇襲の拳?」
その言葉をあかねさんは聞き返す。
奇襲と言ってもアレは忍術に近い。動きも当然だけど、あそこまで速く動けるのは凄まじい鍛練と修行を繰り返さなければたどり着けない。
早乙女君も継ぐものがあるわけだね。
「オラは元々近眼乱視じゃぞ!今さら貴様が増えたところで驚きもせん!!」
「「「「え゛っ」」」」