遊園地を楽しんだ後、私は行きつけの喫茶店に九能先輩と一緒に入り、アイスコーヒーとホットコーヒーを頼み、夕焼けの空に照らされながら彼を見つめる。
「切君、いや、しほちゃんか?」
「……どっちでも構わないよ。九能先輩」
「そ、そうか。では、しほ、と。十数年ぶりに再会できた事を嬉しく想う。その、再会してすぐに気付けなくて申し訳なかった!」
ガン!とテーブルに頭をぶつけながら謝罪してきた九能先輩にクスリと笑いつつ、私は九能先輩の持っていた写真と同じものを見せる。
すると、気恥ずかしそうに九能先輩も手帳に挟んでいた写真を取り出して、私に差し出してくる。フフ、考えることは一緒だったわけだね。
「しほ、どうして偽名を使っているんだ?」
「ああ、えっと偽名じゃないかな。糸色は襲名制の名字で、分家筋は当主候補になると名字を変えて名乗る事を許されるの」
「じゃあ、本当の名前は」
「私の本名は
「うむっ」
そう言うと九能先輩は嬉しそうに笑いながら胸元に手を差し込み、一枚の紙を取り出して、ゆっくりとテーブルに広げてきた。
─────婚姻届である。
「昔の約束を覚えているか。大きくなったら僕と結婚してお嫁さんになってくれるというものを」
「え、えと、九能先輩?」
「切君、十数年ずっと君が忘れられなかった」
あれ、なんか不穏な雰囲気を感じるかな。
「しほ、好きだ。切君、愛している」
「っ、あ、えうっ、ほえ?」
突然の告白に返事を返すことが出来ず、私は真っ直ぐ一切の邪念も無く私を見つめる九能先輩の眼差しに顔が燃えるように熱くなるのを感じる。
「指輪も買ってある」
「な、なんで指のサイズっ」
「手を握ったときに買ったんだよ」
「ひえっ、うぅ…!」
余裕が、無くなる。
嬉しいのと恥ずかしいのが同時に来た。
「……ほんとに、私で良いの?」
「十数年、君だけを想っていた」
「あかねさんやおさげの子は?」
「すまない。ウソを吐いてしまった、僕はしほだと思った相手を片っ端に口説いていた!申し訳なかった!だが、ようやく君に会えた!!」
そんなに私が好きなのかな?と疑問に思いながら、彼の告白の答えを言おうとした瞬間、九能先輩の頭が再びテーブルに叩き込まれた。
「迫りすぎだぜ」
「ま、マスター……」
「悪いな。告白を邪魔するつもりはなかったんだが、あのままだとコイツはオオカミになってたぜ」
おおかみ?
なんで九能先輩がオオカミに?