風林館高校での初めての夏休み。
海の家「焼きそば」でのんびりと夏期宿題を進める私とは裏腹に句君は未だに治る気配の無い小鎌さんと一緒にシャンプーのお婆ちゃんと戦っている。
「切君、一緒に小舟デートはどうだろうか?」
「えっ」
小舟。
船の上に乗ってデートしようと言ってきた九能先輩に戸惑いつつ、どうやって説明しようかと悩みながら海に来るときは別行動だったことを思い出す。
それなら知らないのも仕方ないかな。
「ごめんね。九能先輩、私酔っちゃうから」
「ムッ。そうだったのか」
私の言葉を信じてくれた九能先輩は悪くないのに謝ってくれた。悪いのは酔いやすい私のせいだから気にしなくて良いのに何だか申し訳ない気がする。
そう思いながら私はノートを閉じて、日焼け止めを塗った上にパーカーを着ていたソレを脱ぎ、九能先輩に右手を差し出す。
「泳ぐのは普通に大丈夫だよ。行こ?」
「っ、あ、ああ」
なぜか口許を覆うように左手を顔に添える九能先輩に小首を傾げながら軽く身体を動かして、ゆっくりと冷たくて夏場だからこそ心地好い海水に浸かっていき、直ぐに胸よりも上に海水が来てしまう。
「切君、溺れないように僕の手を握ると良い」
「フフ、ありがとうかな♪︎」
ちゃぷり、と海面に手を出して九能先輩と手を繋ぎながら一緒に泳いでいると九能先輩の後頭部にスイカがめり込み、大きなたん瘤が出来上がった。
投げてきたのは早乙女君とシャンプー。
どうやら私達と同じように海水浴に来ていたらしく、二人ともお互いのスイカを叩き割ろうと必死に木刀を振り回しながら戦っている。
「九能先輩、最近ずっと気絶してるね」
そう気を失っている九能先輩を背負い、海水を蹴って砂浜に戻り、海の家の席を借りて気を失っている九能先輩に膝枕をしてあげる。
熱中症にならないように濡らしたタオルを頭に乗せて、私はスイカを叩き割り、どちらにキスするのかを迫られる早乙女君の醜態を眺める。
「うっ…」
「あ、今回は早く起きた。もう気を付けなよ?」
「絶景かな」
ムクリと起き上がった九能先輩は私を見下ろした瞬間、鼻血を垂らして、また倒れた。いったい、なにが絶景だったのだろう?と小首を傾げつつ、鼻血を拭いてあげ、また膝枕をしてあげる。
「(……九能先輩とお付き合いしているけど。お父さんに伝えて、許嫁の件を取り止めて貰わないといけないかな。会ったこともない人より……)」
そう気を失っている九能先輩を見つめ、何事も順番を守るものだと考える。