「すまない、切君。折角の海水浴デートを僕の介抱だけで過ごさせてしまった」
そう言って謝ってくる九能先輩に「私は楽しかったよ。九能先輩」なんて言いながら焼きそばを彼の口許に持っていくと大きく口を開けて、モグモグと食べる。
小鎌さんは無事に女の子に戻る方法を手に入れ、無事に元通りに戻った身体で今も嬉しそうに海の家のアイスを食べている。しかし、本当に彼女の経絡を突いた相手を調べておかないといけない。
それに、私の許嫁の事も九能先輩に話してお父さんと相手の人に縁談を断るお話をしないと私は本当の意味で、九能先輩の恋人とは言えない。
「(九能先輩、凄く怒りそう……)」
「切君。気になっていたんだが」
「な、なに?」
「どうして、眼鏡を掛けているんだ?昔は眼鏡を掛けていなかったと……」
「ああ、これですか」
素直に思ったことを告げる九能先輩の真面目さに苦笑を浮かべつつ、私は眼鏡を外して彼に差し出す。度数の高さに驚く九能先輩の顔は見えないけど。
それなりに想像は出来るかな。
「初めのお師匠様と修行していたときに事故でさ。視力が落ちちゃったんだよ。二人目のお師匠様が視力に頼らない戦い方を教えてくれ……どうしたの?」
私の手を握り締める九能先輩に困惑し、彼のボヤけた輪郭を見つめる。痛いくらい強く掴む手に身体が強張るけれど。不思議と嫌な気持ちにはならないかな。
「切君、僕はまだまだ強くなる。君が当主を目指すのならば手となろう。足となろう。君を襲う火の粉を切り裂く剣となろう。だから自分が傷付いたことを嬉しそうに話すのは、やめてくれ」
「……フフ、大丈夫だよ。不幸を自慢している訳じゃなくて、強くなるきっかけを貰った話をしているだけ。それに糸色家の当主様は世界最強だからね」
かつて世界を救った話しも聞いている。
実際、昔の映像だけど。
本当に強くて凄まじい彼女の姿に見惚れてしまった。お父さんが彼女の後釜を狙うのは、彼女より強いと糸逢家を誇示するためだ。
「九能先輩は自分の速度で追い付いてね」
「いいや、直ぐに追い越そう!」
そう言うと九能先輩は立ち上がると右手を力強く握り締めている。私は眼鏡をかけ直しながら、勇ましく強さを求める彼の姿を見つめる。
やっぱり、タッチーだなあ。
昔も今も変わらずに私の事を追いかけて、簡単に追い抜いていく。昔は背も私のほうが高かったのに、10cm以上も離されちゃったもんね。
それにしても、私って不幸を自慢しているように見えたのかな?と少しだけ自分の言動を変えようかと思いつつ、九能先輩から小鎌さん達に視線を移す。