九能先輩との海水浴デートから二日ほど経過し、一通り宿題を終わらせた私はお父さんの手紙を持って帰ってきた忍びにお礼を言いつつ、小鎌さんと句君のいないリビングで読み、静かに深い溜め息を吐いた瞬間、
地響きと共に花瓶が落ちそうになる。
まさか地震?と小首を傾げながら窓を開けると壁を殴る響君とシャンプーのお婆ちゃんを見つけた。なんでマンションを殴っているのだろうか。
「む?おお、糸色殿。奇遇じゃな」
「奇遇も何もウチのマンションかな」
正確に言うと分家筋のひとつが所有するマンションをそのまま貰っているだけで、本当に私のものというわけじゃないけど。
そう心の中で呟きながら窓から入ってきた二人に冷えた麦茶を出して、響君に何があったのかを聞けば早乙女君に勝負を仕掛けたものの、屈辱的な敗北をした挙げ句、あかねさんに哀れまれたそうだ。
確かに辛い負け方だ。
「ワシはこの小僧を鍛えるつもりじゃが、糸色殿もワシの手伝いで鍛えるつもりはあるかの?」
「響君を?」
「乱馬に勝つためならオレは何でもするぞ!」
メラメラと復讐心を高める響君と良からぬ事を考えているのが丸分かりなお婆ちゃんの二人に苦笑を浮かべつつ、「二人が帰ってきたら相談するよ。今日は泊まる?」と聞けば「うっ。すまない」と謝ってくる。
謝るのは良いけど。
響君はいい加減に荷物を忘れて走り出す事はやめた方が良いんじゃないかな。あまり、そういうことを続けていると本当に大事なモノも無くしちゃうよ?
「カレーだけど、辛口?甘口?」
「か、辛口で」
「ん。じゃあ、作るからお風呂入ってきなよ」
私の言葉で廊下に向かった響君は何故かお風呂じゃなくて私の部屋に入り、直ぐに出てきたかと思えば句君の部屋に入り、トイレ、クローゼットなど場所を間違える。
「ちと逸ったかも知れんな」
「お婆ちゃんも食べていく?」
「いや、ワシは家で家族と食べるでな。明日、迎えに来ると小僧に伝えてくだされ」
そう言い残してお婆ちゃんは窓を飛び出した。
「風呂はどこだ?!」
「私の部屋の右側かな」
野菜を炒め、お肉を切り分ける最中にドアに着けた名札を見るように伝えれば「そ、そうだったのか」と気恥ずかしそうに顔を赤くして響君は脱衣所に入った。
それと同時に玄関の鍵を開ける音が聞こえ、句君と小鎌さんが野菜を抱えて帰ってきた。商店街の福引きで当たったらしく、すごい数である。
「良牙が来てるのか?」
「今お風呂を使ってるから句君、悪いんだけど。服とか貸してあげてくれる?」
「分かった」
「……貴女、彼氏居るんだから気を付けなさいよ?」
なぜ、そこで九能先輩のことを?