「降ろしてよ!?」
翌朝。その悲鳴めいた怒鳴り声に目を覚まし、ぼんやりと身体が不安定な事に気付く。成る程、私もあかねさんと一緒に縛られているわけだ。
ご丁寧に服の中に仕込んでいた槍は地面に突き刺さり、私の指も一本ずつ絡めるように縛り、技も出せないように固定されている。
「流石にやり過ぎじゃないかな?」
「切さん、起きたのねっ」
僅かに安堵の声をこぼすあかねさんの言葉に頷きつつ、足元で戦う早乙女君と響君を見る。差し詰、あかねさんを賭けた決闘なんだろうけど。
私を縛る必要性は何処にある?
そもそも私を賞品扱いするのはダメかな。
「爆砕点穴ッ!!」
「しゃらくせぇーっ!!」
ドスンと人差し指を地面に突き立てた刹那、間欠泉……いや、本当に爆発したように地面は炸裂し、大量の岩石が石礫となって二人の身体を襲う。
しかし、早乙女君は石礫など意に介さず、片腕を地面に突き立てたまま動かない響君の顔に数十発の拳打を叩き付け、大きく真後ろに吹き飛ばした。
「火中天津甘栗拳!」
「かちゅう?」
あまぐり、甘栗?
ああ、民明書房に載っている中国の秘拳。その秘拳を極めた者は、不可視の拳を操ると聞いたことはあるけど。今のがそれなのだろうか。
「効かんぞッ、その程度の技なぞ効かん!!」
「チッ。無駄に頑丈になりやがって…!」
そう不満を言いながら早乙女君は腰を沈め、両手を地面に押し付け、四足歩行の猛獣のように構えを変える。アレは、虎拳の一種かな。
「無差別格闘早乙女流、猛虎落地勢。まさに地に伏して獲物を狙う猛虎の型。猫拳のトラウマを克服するため、乱馬に授けた妙技だ」
「格好つけているけど。おじさんが早乙女君を猫の穴蔵に押し込んだ話しは聞いているからね?」
「おじさん、ウソは駄目よ?」
「なんと、あの猫拳にそんな秘話が」
私達の会話が聴こえているのか。
早乙女君は四つん這いのまま凄く恥ずかしそうに顔を赤く染め、響君も流石に好敵手の悲しい話しは聞きたくなかったらしい。
「けっ。今さら隠すことじゃねえ!」
「乱馬、よくぞ言った!」
それは褒めることなの?と小首を傾げながら木を蹴って、枝の上に登り、両手の関節を外して綺麗に嵌め直して指の拘束を一つずつ丁寧に外す。
「お婆ちゃん、あまりおふざけはやめようね」
「ほっほっ。姿や物腰は景殿にそっくりじゃが、その気質は左之助殿にそっくりじゃな。懐かしい気持ちにもなるわけじゃわい」
そう呟きながら笑うお婆ちゃんの隣に座り、賞品扱いされるあかねさんを引っ張り上げ、私達は静かに二人の戦いを観戦する。