響君の拳打を受ける度、関節を外され、苦悶の表情を浮かべる早乙女君はガコンと歪な音を立てて右肩を嵌め直し、ゆっくりと両手を手刀に、半身を引いて構える。
「早乙女流奥義!」
両の手を素早く繰り出す早乙女君。ただの火中天津甘栗拳に見えるけれど、さっき見た火中天津甘栗拳は拳打を高速で無差別に放つ技───。
「親父直伝ッ、
「パンダだとぉッ!?」
熊手に構えた連打は止まらず、獰猛なヒグマのごとく荒々しく響君の身体を打つ掌打は凄まじく、両腕を上げてガードを固める響君の身体に掌打はめり込み。
僅かにガードの緩んだ隙間を縫い、早乙女君の左掌打が正確に響君の横面を捉えた。ドゴォッ…!と重たい打撃音が響き、ついに響君は倒れた。
「ハアッ、ハアッ…どうでぇ…このゾンビ野郎が」
「グッ、ふ、ふふふふふッ!きかぁぁ…ん」
ぐらり、と立ち上がったかに思えた響君は前のめりに倒れ、早乙女君の足元に倒れ伏した瞬間、轟音と共に地面は砕け、二人は崖の下に落ちた。
「ええぇえああぁああっ!!?」
なんだか情けない悲鳴が聞こえた。
「乱馬あぁーーーっ!!」
「早乙女君、落ちたわね」
「やれやれ。世話の焼ける婿殿じゃ。糸色殿、数日だったがお主と過ごせて楽しかったぞ」
「私も楽しかったよ、お婆ちゃん」
そう言って私はキャンプ用品を片付け始める。あかねさんは心配しているものの、あの程度の高さから落ちても問題ない事は彼女も分かっている。
暫くして、私達と一緒に荷物を片付け。
下流に流された早乙女君と響君を追いかける。
無事だと良いなと思う反面、なにかあるとしたら私に関わることだろうと考える。チラリと木々を伝って下流に向かう人影に小さく溜め息をこぼす。
正直、九能先輩と再会していなかったらお父さんの言うとおりに結婚していた相手だ。だから、それなりに申し訳ない気持ちだって存在する。
向こうも私と結婚するつもりだった筈だから余計に考えてしまう。深く考えるとイヤな気持ちになる。私は一度も会ったことのない人を愛せるだろうか……。
「Pちゃん!?」
「あかねさんの子ブタ、なんでここに?」
お婆ちゃんの近くで失神する女の子の早乙女君を早乙女玄馬が背負い、子ブタをあかねさんが抱き上げ、私は響君と早乙女君の荷物を運ぶ。
なんだか違うのでは?と思いながらも私は安全な道を歩くお婆ちゃんの後ろを歩きつつ、いつの間にか消えていた視線の正体に首を傾げる。