「ワシも歳じゃからな。そろそろ元祖無差別格闘流の跡継ぎを決めにやって来た。切ちゃんを据えても良いんじゃが、流石に世界規模の組織と喧嘩するのは文字通りに全身の骨が折れる」
「そんなに野蛮じゃないかな」
糸色本家の人は良い人と悪い人のどちらもいるし。典型的な悪さを仕出かすのは分家筋の一部だ。糸逢家はまだ歴史を重んじる保守派に所属している。
現当主の糸色妙様は革新派。
その理念は善悪問わず全ての罪も穢れも清算し、呑み込み、糸色本家の秩序を取り戻そうとしている。糸色家五百年の歴史上、彼女より強い人はいないのも革新派の猛進が止まらない理由なのもあるけれど。
「早乙女流はコレに譲りまして」
「ほーん?」
「女の子を鍛えるなんていやじゃあぁぁっ!!」
「ひえぇぇ~~~~っ!?」
うわあ、ものすごい悲鳴を上げている。が、早乙女玄馬がお湯を掛けると早乙女君は男に戻り、キョトンとした表情のお爺ちゃんと見つめ合う。
暫しの沈黙の後、お爺ちゃんは「良かろう。玄馬の息子を我が元祖無差別格闘流の跡継ぎとする!」と何事も無かったかのように振る舞う。
まあ、私も性別が変わるのはビックリする。
「勝手に決めてんじゃねえ!」
早乙女君は羞恥心を煽られたせいか。顔を赤くしながらお爺ちゃんの襟首を掴み、怒鳴り付けた刹那、キセルを手首に絡めて投げ飛ばされた。
「強いな。あの爺さん」
「私の下着を盗んだ老人よね?」
句君と小鎌さんもお爺ちゃんの技に感心しながらも真上に吹き飛ばされたまま一向に戻ってくる気配のない早乙女君に、みんなは慌てて探し始める。
「乱馬ーっ!」
「怖がらなくても良いのよ、乱馬くぅん」
「あら、乱馬君は怖がっているの?」
天道家の三姉妹の声を聞いても出てこない早乙女君。もしかして遠くまで投げ飛ばされたのかな。そう考えながら伸縮する棍を地面に突き立て、片端を掴み、伸ばすボタンを押して空高く昇る。
「あ」
「だはあぁああぁあああああっ!!!??」
落下する早乙女君とすれ違う。
…………胸に手を伸ばすから、避けちゃった。
申し訳なく思いながらギリギリで屋根の上に着地した早乙女君はプルプルと震えている。命綱無しのバンジージャンプってすごく怖かったのかな。
そんなことを思いつつ、ゆっくりと棍を滑るように降りていき、無事に見つかって良かったと話す父親達の背後に「生け贄はアイツにしよう」というプラカードが見えてしまっている。
お爺ちゃんの修行って、そこまで辛いのかな?