「九能先輩、お弁当どうぞ」
「ありがとう、切君」
2年生の教室に重箱を抱えて小鎌さんと一緒に向かい、九能先輩に差し出すと怨嗟の眼差しを彼は一身に受け、消ゴムや筆箱を投げられている。
九能先輩と小鎌さん、大丈夫かな?
「あら、切ちゃんじゃない」
「天道先輩、おはよう」
「えぇ、おはよう。ちょうど良かったわ、貴女宛の手紙を3万円で受け取ったから渡しておくわね」
私の手紙は3万円もするの?
そう私は小首を傾げながらも手紙の封を切って手紙を広げる。二枚の手紙、他にあるのは「
成る程、私の許嫁は糸益家の人間なんだね。
「拝啓。糸逢切様、先日そちらへ逸って向かってしまった忍びの謝罪と婚姻の日取りを決める会合を設けるため、此方に来る様に。ぬぁんだこれはァ!!?」
「九能先輩、勝手に読まないで欲しいかな」
ビリビリと手紙を破り、丸めてゴミ箱に投げ捨てる九能先輩は荒々しく肩を震わせながら此方に向き直ると「知らん男と結婚するつもりか!」と私に問う。
「九能先輩が大好きだからしないかな」
「……フッ。見たか、僕の
「九能君、物凄く取り乱してたけどね」
「居るわよねー、自分の恋人が誰かと話していたら束縛する彼氏。切ちゃんは気にしないのかしら?」
「しないかな。むしろもっと魅了してあげる♪︎」
にっこりと笑って九能先輩を見つめると何故か彼は鼻を押さえる。泣きそうなのかな?と小首を傾げる私はホームルームが始まる前に1年生の教室に戻るために廊下に出て、階段を降りていると魔女先輩とすれ違う。
「糸色さん、憑いているわよ」
「守護霊だよ。魔女先輩」
「あら、そうなの?今度私ともお茶しましょうね」
「今日、行こう」
「ウフフ、即決なのは素敵よ」
そう言うと3年生の教室に向かっていく魔女先輩は楽しげに笑い、見たことの無い機械───ベルトのバックルを手に取って見せてきた。
なにかの道具かな?と思いつつ、どこにアレを持っていたのかが凄く気になってしまう。スカートのポケットには到底入りきらないサイズだった。
私の槍は袖やスカートの中に仕舞えるけど。
そう考えながら教室に入り、早乙女君を取り合うシャンプーとあかねさんに苦笑を浮かべつつ、早乙女君の助けを求める声に答えて、ホームルームが始まることを伝えると二人とも直ぐに席に戻ってくれた。
しかし、本当に私の許嫁は糸益家なのかな。
本当にそうなら、ちょっとイヤだな。
【概要用語解説】
本作の単語や転生者、その親族を解説します。
【
緋村後と緋村剣路の三男の興した分家。
他の分家筋同様に糸色本家に取り入ろうとする保守派であり、糸色妙を筆頭とした革新派とは目立った確執は無いものの、基本的には中立の立場を保っている。
主な家業は「和裁士」や「指圧師」。
・特記1
糸逢切はとある事故によって視力を低下し、現在は眼鏡を着用している。左目は曇った様に薄青色であり、見えているのかは本人以外に不明。
・特記2
糸逢切は九能帯刀の幼なじみ。九能家と糸色家は百年来の関係であり度々会合に参じる事もあり、凡そ十年前の本家にて二人は出会い、一年ほど過ごした。
当時、九能帯刀は7歳。糸逢切は6歳。